ぬきん)” の例文
子の憲も弟の庭皓ていこうも、咸通中に官にぬきんでられたが、庭皓は龐勛ほうくんの乱に、徐州で殺された。玄機が斬られてから三月の後の事である。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かつて三河三奉行の一人、佛高力ほとけかうりきと呼ばれた河内守清長の曾孫で、島原の亂後、ぬきんでて鎭撫ちんぶの大任を命ぜられ、三萬七千石の大祿を食みましたが
その重きことは日ごろ給料を与えて、自分のために忠勤をぬきんずべき義務をもっている従僕が、たまたま難にって自分を救ったよりは、ものそのものはいかに軽くとも
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
早く蔵人くろうどぬきんでられ、ついで二十何歳かで三河守に任ぜられたが、然様そういう家柄の中に出来た人なので、もとより文学に通じ詞章を善くし、又是れ一箇の英霊底の丈夫であった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この八角に築きたる室には、實に全廊の尤物いうぶつぬきんでゝ陳列せり。されどその尤物の皆けおさるるは、メヂチのヱヌスの石像あればなり。かくまでに生けるが如き石像をば、われこの外に見しことなし。
成斎は卒中そっちゅうで死んだ。正弘の老中たりし時、成斎は用人格ようにんかくぬきんでられ、公用人服部はっとり九十郎と名をひとしうしていたが、二人ににん皆同病によって命をおとした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
平次は二本燈心の行燈を引寄せて、踏臺ふみだいの上に腰を掛けました。廣々としたお勝手は念入りにみがき拔かれて、ちり一つない有樣、十七年間忠勤をぬきんでたといふ、お越の働き振りが思ひやられます。
ここに於てぬきんでられて兵部尚書へいぶしょうしょとなり、盛庸は歴城侯れきじょうこうとなりたり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この遺書は倅才右衛門あてにいたしおき候えば、子々孫々相伝あいつたえ、某が志を継ぎ、御当家に奉対たいしたてまつり、忠誠をぬきんずべく候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
然るに一朝ぬきんでられて幕府の医官となり、法眼に叙せられ、閣老阿部正弘の大患に罹るに及んでは、単身これが治療に任じ、外間謗議の衝に当つた。全く是れ榛軒が激厲げきれいの賜であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)