描出びょうしゅつ)” の例文
前の方は非我の事相のうちに愛を認めて、これを描出びょうしゅつするので、後の方は我の愛を認めたる上、これを非我の世界にげ出すのであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
惜しい事に雪舟せっしゅう、蕪村らのつとめて描出びょうしゅつした一種の気韻は、あまりに単純でかつあまりに変化に乏しい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
内におさえがたき或るものがわだかまって、じっとこたえられない活力を、自然の勢から生命の波動として描出びょうしゅつきたる方が実際ったかたと云わなければなるまい。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
沙翁はクラレンス公爵の塔中で殺さるる場を写すには正筆せいひつを用い、王子を絞殺こうさつする模様をあらわすには仄筆そくひつを使って、刺客の語をり裏面からその様子を描出びょうしゅつしている。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この一片に誘われて満洲の大野たいやおおう大戦争の光景がありありと脳裏のうり描出びょうしゅつせられた。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女の気分は少しかろくなった。彼女は再び筆を動かした。なるべく父母ふぼの喜こびそうな津田と自分の現況をはばかりなく書き連ねた。幸福そうに暮している二人のおもむきが、それからそれへと描出びょうしゅつされた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十分じゅうぶんで事足るべきを、十二分じゅうにぶんにも、十五分じゅうごぶんにも、どこまでも進んで、ひたすらに、裸体であるぞと云う感じを強く描出びょうしゅつしようとする。技巧がこの極端に達したる時、人はその観者かんじゃうるをろうとする。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)