)” の例文
てんでんが芋※ずいきの葉をぎりまして、目の玉二つ、口一つ、穴を三つ開けたのを、ぬっぺりと、こう顔へかぶったものでござります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すぐ表の坂を轟々ごうごうと戦車が通りすぎて行った。すると、かぼそい彼の声は騒音と生徒のわめきで、すっかりぎとられてしまうのであった。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
今更、これを引離すことは、勢い立った若武者を戦場から引上げさすことであり、恋人との同棲からはずすことだった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「なかなか出て来るすきがなかったもんで、八百屋へ買いものに行くふりして、途中でぎ放して来たの。あの人は私が先生にお金もらうことを、大変いやがってるの。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しぶきが頬桁ほおげたなぐり、水が手足をぎとろうとする、刻々に苦しくなってゆく波に、ふと仄明ほのあかりにただよっているボートが映る。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
そういって彼は私の下駄をぎ取った。わたしは泣いて帰った。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
……隣人よ、隣人よ。そうだ、君もまた僕にとって数時間の隣人だった。片手片足を光線でがれ、もがきもがき土の上によこたわっていた男よ。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
(青年、蓮月の手に持てるものに気付きてぎ取る。)
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
めらめらの火や、きあげる血や、がれた腕や、死狂うくちびるや、糜爛びらんの死体や、それらはあった、それらはあった、人々の眼のなかにまだ消え失せてはいなかった。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
最初顔に受けた光線をさえぎろうとしておおうた手が、その手が、今もぎとられるほど痛いと訴えている。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
虚妄きょもうだ。妄想だ。僕はここにいる。僕はあちら側にいない。僕はここにいる。僕はあちら側にはいない)僕は苦しさにバタバタし、顔のマスクをぎとろうとする。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)