捨身すてみ)” の例文
まるで捨身すてみのかまえとしか見えない。もし位置をえて、信玄がそれに拠るとしたら、信玄は決して晏如あんじょとしていられない気がする。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの試合に殺気を立てたのはみんな浜という女のなすわざじゃ、文之丞が突いた捨身すてみ太刀先たちさきには、たしかに恋の遺恨いこんが見えていた
お妙は、あの職人姿で飛び込んで来て、自分が捨身すてみのたんかで父壁辰の十手から救った喬之助を、忘れようとして忘れられないのだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
神にも拝謁はいえつのできぬものにはあらざるべしと決心し、これより種種しゅじゅの善行を志し、捨身すてみ決心して犬鳴山けんめいざんこも大行たいぎょうをはじめ
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いかにも捨身すてみ自暴やけになりたる鋭き感情現れたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
白刃しらはとり極む捨身すてみの入り早し飛鳥の如くその手抑へぬ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「このところ、馬超が、つねにも増して、強いわけは、今や彼の立場は、進んでも敵、退いても敵、進退両難に陥っているためで、いわゆる捨身すてみ奮迅ふんじんだからです」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
抜いたのは同時だったが、虚心流きょしんりゅう捨身すてみの剣の前に、四人の供はたちまち地にって……身を捨ててこそ浮かぶもある喬之助の強刃ごうじん白蛇はくだのごとくおどって慶之助に追い迫った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その晩のわしは、まったく捨身すてみだった。田も畑も街道も見えなかった。ただ真っ暗な五月闇さつきやみの雲のに、ぴかぴかと大きく光る星だけが、何かの凶兆のように眼に映った。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間、おのれ以外のために、たれが捨身すてみになるものか。——頼まれたのは山の隠者からだが、その隠者へは、時々、両軍のもようを知らせてさえおけば、いくらでも金はつかわせてくれるんだ。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とたん——目をさましてきた四、五人の手下たちも、それッと、かいや太刀をふるって、わめきつ、さけびつちこんできたが、伊那丸も捨身すてみだった。小太刀の精のかぎりをつくして、斬りまわった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)