捧持ほうじ)” の例文
で、書院から捧持ほうじして来た関の孫六の夜泣きの名刀、乾雲丸は丹下左膳へ、坤竜丸こんりゅうまるは森徹馬へと、それぞれ一時鉄斎の手から預けられた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼は宇佐八幡の神教なるものを捧持ほうじしていた。それに曰く「道鏡をして皇位に即かしめば、天下太平ならん」と。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「ヴォルデマール君は、お小姓の資格で、女王様が庭へけ出す時、その裳裾もすそ捧持ほうじするでしょうな」と、毒々しい口調でマレーフスキイが一矢いっしをむくいた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
自分は教会の門前で柩車きゅうしゃを出迎えた後霊柩に付き添って故人の勲章を捧持ほうじするという役目を言いつかった。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ことらは、ただちに内侍所ないしどころ(三種ノ神器をおく所)へすすみ、つつしんで神璽しんじ御鏡みかがみなどを捧持ほうじして、早よう車のうちへうつしたてまつれ。……また公敏きんとし季房すえふさなんどは、供の用意を
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葵の御定紋もいかめしい朱塗り造りの曲彔きょくろくに、いとも気高く腰打ちかけながら、釣るがごとく釣らざるがごとくに何とはなく竿を操り、右に控えたお茶坊主は金蒔絵きんまきえしたる餌箱をうやうやしく捧持ほうじして
内侍所ないしどころ御櫃みひつ剣璽けんじ捧持ほうじなど、はや御立座に供奉ぐぶして、おん出でましのように拝されますが、もし、大元帥だいげんすいの大君が、ここに、おわしまさずとなったら、あとの義貞以下、われら将士は
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが実にさもさもだいじなものを捧持ほうじしているようなかかえ方である。よそ目にもはらはらするようなそこらの日本の子守りと比べて、このシナ婦人のほうに信用のあるのはもっともである。
軽井沢 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
実際、暮れ六つというと、毎日必ず下げ髪から身体からだ全体をぐっしょり濡らして、女は跫音あしおともなくやって来る。そして、同じ最上等の酒を一合だけ買って、それを儀式のように捧持ほうじして立ち去るのだ。
と、捧持ほうじの役をいいつけた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)