扞格かんかく)” の例文
最初、一、二年は、良沢と玄白との間に、なんら意見の扞格かんかくもなかった。が、彼らの力が進むに従って、二人はいつも同じような口争いを続けていた。
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
元来思想上相容れなかったので思想上の扞格かんかくが感情上の乖離となって、一時は交際が殆んど途絶とだえていた。
しかして教育の事はなんら国際上に扞格かんかくを生ずることなく、世界に大なる貢献を為すことが出来る。学術は世界共通のものである。真理に国境なし、真理は共通である。
早稲田大学の教旨 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
嬉笑きしょうにも相感じ怒罵どばにも相感じ、愉快適悦、不平煩悶はんもんにも相感じ、気が気に通じ心が心を喚起よびおこし決して齟齬そご扞格かんかくする者で無い、と今日が日まで文三は思っていたに
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
新浪漫主義をとなえる人と主観の苦悶くもんを説く自然主義者との心境にどれだけの扞格かんかくがあるだろうか。
親友の命を虫の息のようにかろく見る彼は、理とじょうとの間に何らの矛盾をも扞格かんかくをも認めなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
恐ろしい戦争の殺戮さつりく無辜むこのものの流るゝ血、乃至ないしは新しい恐ろしい思潮、共同生活を破壊する個人思想、意志と魂との扞格かんかく、さういふものがこの世界にあらうなどとは夢にも知らずに
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
かかる時に際し、人は往々にして大勢の推移を知らず、前後を同一の時代と観ずることがある。ここに於てか人と時勢と相副あいそわず、その間に扞格かんかくを来すのである。これ社会に保守党の起る所以ゆえんである。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
何の扞格かんかく凝滞ぎょうたいも発見されず、極めて平和であるのです。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
斯くありたしとの希望をれぬ自然の器械的なる進行に即して起る矛盾扞格かんかくの意に外ならぬ。
文芸とヒロイツク (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
扞格かんかくした力の上に起つて来る悲劇は、これは何うも致し方がない。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)