手箪笥てだんす)” の例文
そして、象牙彫ぞうげぼりの仕事場の隅におかれた、手箪笥てだんすをゴトゴトやっていたが、やがて、小さな象牙彫りの印籠いんろうを持って来た。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
少しも騒がず手箪笥てだんすの中から一つつみの金(百円包のよし)を取出し与えますと、泥坊はこれほどまでとは思いもよらずきもをつぶした様子なりしが
蓮月焼 (新字新仮名) / 服部之総(著)
手附けの金をふところにし(この金は封を切ったまま手箪笥てだんす抽斗ひきだしに入れて手を附けずに置きました。万一間に合い兼ねた時、これがなくなっていては申し訳が立たないから)
である日、手箪笥てだんすの底から彼が結婚前に書きかけてゐた自叙伝的な創作の原稿をとり出した。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
「そのお金が五百円、その晩お手箪笥てだんす抽斗ひきだしから出してお使いなさろうとするとすっかり紛失をしていたのでございます、」と句切って、判事の顔を見て婆さんは溜息ためいきいたが
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叔母は手箪笥てだんすや手文庫の底から見つけた古い証文や新しい書附けのようなものを父親の前に並べて、「何だか、これもちょっと見て下さいな。」と、むっちり肉づいた手にしわした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
手箪笥てだんす抽斗ひきだし深く、時々思出おもいだして手にえると、からなかで、やさしいがする。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)