房楊枝ふさようじ)” の例文
と、その頃はぜいの一つにされた、「猿屋」の房楊枝ふさようじを横ぐわえにして、弥助の息子の駒次郎が、縁側へ顔を出しました。
そこが中庭になる、錦木の影の浅い濡縁で、合歓ねむの花をほんのりと、一輪立膝の口に含んだのは、五月初の遅い日に、じだらくに使う房楊枝ふさようじである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが、大きな樹も小さな灌木かんぼくも、みんなきれいに樹皮をはがれて裸になって、小枝のもぎ取られた跡は房楊枝ふさようじのように、またささらのようにそそけ立っていた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
寄席よせへ行った翌朝よくあさだった。おれん房楊枝ふさようじくわえながら、顔を洗いに縁側えんがわへ行った。縁側にはもういつもの通り、銅の耳盥みみだらいに湯を汲んだのが、鉢前はちまえの前に置いてあった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
垣根に房楊枝ふさようじをかけて井戸ばたを離れた栄三郎を、孫七と割りめしが囲炉裡いろりのそばに待っていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
別の女が、同じ塗の桶に入れた水と、手拭と、房楊枝ふさようじとを持って来て、枕頭へ置いた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
彼は深川佐賀町の寓居で、房楊枝ふさようじをくわえながら、錆竹さびたけの濡れ縁に萬年青おもとの鉢を眺めて居ると、庭の裏木戸をおとなうけはいがして、袖垣のかげから、ついぞ見馴れぬ小娘が這入って来た。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
房楊枝ふさようじ井桁いげたに挟んで、ガボガボとうがいをやった平次、一向物驚きをしない顔を、ガラッ八の方に振り向けました。
大好だいすきあじの新切で御飯が済むと、すずりを一枚、房楊枝ふさようじを持添えて、袴を取ったばかり、くびれるほど固く巻いた扱帯しごき手拭てぬぐいを挟んで、金盥かなだらいをがらん、と提げて、黒塗に萌葱もえぎの綿天の緒の立った
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は房楊枝ふさようじを井戸端の柱に植えて、手水鉢ちょうずばちに水をくみ入れながら、こう振返りました。