戞然かつぜん)” の例文
その矢はまさに誤たず大鵬の横腹に当ったが、こはそもいかに肉には通らず、戞然かつぜんたる音を響かせて、二つに折れた矢は地に落ちて来た。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
五大洲はまっすぐなたまをだした。戞然かつぜんと音がした、見物人はひやりとした、球ははたして千三に向かった、千三は早くも右の方へよった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
もう少しくわしくいえば、戞然かつぜんとして木を打ち割った音と同時に鶯がいたので、「音にうち当る」といったものであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
その戞然かつぜんたる音を聞くと、用人は、自分がそれを仕果したように、とたんにがくと首を垂れて、すぐ息をひいてしまった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこにある株を掘り起しました。地ならしをするために、そこにある石を取ってけました。するとその石の一つが竹藪たけやぶにあたって戞然かつぜんと鳴りました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのとき、ジルコーヴィチ氏が戞然かつぜんと靴を鳴らしたかと思ふと、テーブルの上にあつた書類をばりばりと揉みくしやに丸め、力まかせに床へ叩きつけた。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
見よ、戞然かつぜん声あって骰子の一個は真二つに裂けて飛んだ。一片は六を上にしている。一片は一を上にしている。そして他の一個の骰子は六を示しているではないか。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
広間には歌声と笑い声と、拍車をつけた足で拍子を取る、戞然かつぜん騒然たる音とがとどろき渡った。
ある幸福 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
あのかぐわしきかやの木の清浄なかおりをたしなみながら、ひんやりと手に冷たい石をとりあげて、戞然かつぜんと音たてながら打ちこんで行くことは、まことに颯々爽々さつさつそうそうとして心気の澄み静まるもので
珠はさながらあられのように、戞然かつぜんと四方へ飛び散りました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
戞然かつぜんつばを鳴らして、守人は蒼白く笑った。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
みやここえよ。戞然かつぜん
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
戞然かつぜんと火の匂いを発して五合六合——二つの木剣が縄によじれて見えるばかり激しく打ち合った間髪、エヤッと五体を絞った重蔵の気合い鋭く横薙よこなぎに捨てた真蔭の玄妙。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
追い討ちの大刀だんびらをふりかぶって飛びついたが、御方はそれに眼もくれず、今度は、こんがらの真正面の敵ひじの久八へ斬りつけて、戞然かつぜんとたッた一合、見る間に、相手のつばを割って
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)