悪性あくしょう)” の例文
旧字:惡性
「初めてだからのぼせあがってしまったんじゃありませんか、覚えがあればこんな悪性あくしょうな方になんかれるもんですか」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「このわっぱめッ。そげな悪性あくしょう真似まねしさらすと、れが父者ててじゃのように、れも今に、闇討ち食ってくたばりさらすぞ」
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じゃ、このごろ来た新お代官の胡見沢くるみざわとかいうのが悪性あくしょうで、女と見たら手を出さずには置かないという話だから、そんなのに見込まれでもしたのかい」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あははは」お宮は仕方なく心持ち両頬をあかく光らして照れたように笑った。が、その、ちょっとした笑い方が何ともいえない莫連者ばくれんものらしい悪性あくしょうな感じがした。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
これは、生命いのちより可恐おそろしい。むかし、悪性あくしょう唐瘡とうがさを煩ったものが、かわやから出て、くしゃみをした拍子に、鼻が飛んで、鉢前をちょろちょろと這った、二十三夜講の、さきの話を思出す。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宿屋の亭主のなさけを受けて今の始末、もとより悪性あくしょうのお國ゆえたちまち思うよう、此の人は一代身上いちだいじんしょう俄分限にわかぶげんに相違なし、此の人の云う事を聞いたなら悪い事もあるまいと得心したる故
勧業債券は一枚買って千円も二千円もになる事はあっても、掘出しなんということは先以まずもってなかるべきことだ。悪性あくしょうの料簡だ、劣等の心得だ、そして暗愚の意図というものだ。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
悪性あくしょうを肚の本尊に極めこんでしまう人間も、うじゃうじゃ出て来たということになっちまったのだ
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急に悪性あくしょうがこみ上げて来て、この蛮行に出でたものかも知れない——この雑然、噪然そうぜん、困惑の中に、金椎のみは別世界にいるように、いっかな夢を破られてはいないことがかえって不憫ふびんでもある。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)