怖毛おぞけ)” の例文
家来や百姓は、イノチガケの凄味に舌をまいて怖毛おぞけをふるったかも知れないが、信長の偉さの正体は半信半疑で、わからなかったに相違ない。
織田信長 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
自己の生活に濫して酒肉を買ひ、はたに迷惑をかけてもてんとして恥ぢないやうな、生若い似非デカダン、道楽デカダンには私は何時も怖毛おぞけを振ふ。
文壇一夕話 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
市川海老蔵えびぞうは甲府へ乗り込む時にここの川越しに百両の金を強請ゆすられたために怖毛おぞけふるって、後にこの本街道を避けて大菩薩越えをしたということ。
売国、国賊、——あるいはそういう名が倉地の名に加えられるかもしれない……と思っただけで葉子は怖毛おぞけをふるって、倉地から飛びのこうとする衝動を感じた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
来朝以来、公けの席などで芸者といふものをあたかも日本の代表的女性のやうに誇示される機会はあるにはあつたが、正直のところA氏はこの種の女性には怖毛おぞけをふるつてゐる。
三つの挿話 (新字旧仮名) / 神西清(著)
その晩の為体ていたらくには怖毛おぞけを震って、さて立退たちのいて貰いましょ、御近所の前もある、と店立たなだての談判にかかりますとね、引越賃でもゆする気か、酢のこんにゃくので動きませんや。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひ熊もいる、狼もいる!——そう云った戸田老人の言葉が、いきいきとよみがえった。ぞッと怖毛おぞけだつものがあった。それを聞いたのは夏だ。家中が隊を組んで道普請していたときのことだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
いかに人通りの少ない屋敷町でも、往来のまん中で提重の惚気を聴かされては堪らないと、半七も怖毛おぞけをふるった。しかし今の場合、かれも度胸を据えて其の相手にならなければならないと覚悟した。
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ガラツ八も、濟んだこと乍ら、今更怖毛おぞけをふるひました。
ただ、怖いのはあの犬です、あの黒犬だけには、がんりきも怖毛おぞけをふるいますよ、あの犬がついている以上は、ものになるべきものもものになりません
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「さア、どうぞ。あやかは昨夜から、僕のところへ泊りこみさ。土居光一が現れ、怖毛おぞけをふるっているわけさ」
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
子供は母親を見あげて、その眼の冷たさにぞッと怖毛おぞけだった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ぞーっと水を浴びせられたように怖毛おぞけをふるった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
海に慣れた船頭漁師も怖毛おぞけをふるって、一斉にを急がせて逃げて帰るということです。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
当時、この附近の村里に住む人は、この太鼓の音を聞くと怖毛おぞけをふるったものです。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)