-
トップ
>
-
忍音
>
-
しのびね
思わず、
忍音を立てた——
見透す六尺ばかりの枝に、
倒に裾を巻いて、毛を
蓬に落ちかかったのは、虚空に消えた幽霊である。
狭山はやがて
銚子を取りて、
一箇の茶碗に酒を
澆げば、お静は目を閉ぢ、合掌して、聞えぬほどの
忍音に
男は
暗の中にも、遂ぞ無い事なので
吃驚して、目を
円くしてゐたが、やがてお定は
忍音に
歔欷し始めた。
お勢は返答をせず、只何か
口疾に
囁いた様子で、
忍音に笑う声が漏れて聞えると、お鍋の調子
外の声で「ほんとに
内海……」「しッ!……まだ
其所に」と小声ながら聞取れるほどに「居るんだよ」。
男衆は両手を池の上へ出しながら、橋の欄干に
凭れて
低声で云う。あえて
忍音には及ばぬ事を。けれども、……ここで云うのは、
直に話すほど、間近な人に皆聞える。