忍冬すいかずら)” の例文
再び来るその雨も、鈴蘭すずらん忍冬すいかずらが恵みをたれるのみで、少しも心配なものではなかった。つばめは見るも不安なほどみごとに低く飛んでいた。
茂太郎が陥没して、まだ浮き上らないところの地点の、忍冬すいかずらの多い芝原に、そんなことは一切知らないで、一人の太った労働女が現われて
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
思い出してみれば、どうにも心の動きがつかなかったような日が多かったなかにも、南葵なんき文庫の庭で忍冬すいかずらの高い香を知ったようなときもあります。
橡の花 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
それは別棟になった数寄屋すきやふうの離れで、二方に忍冬すいかずらの絡まった四つ目垣がまわしてあった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ある日、祭司の宿禰は、長羅の行衛不明となったとき彼の行衛をうらなわせた咒禁師じゅこんしを再び呼んで、長羅の病を占わせた。広間の中央には忍冬すいかずらの模様を描いた大きな薫炉くんろえられた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
山城の鞍馬山の名物なる木の芽漬はこの嫩葉を忍冬すいかずらの葉とまぜて漬けたものである。
アケビ (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
忍冬すいかずら常春藤きづたまとわり付いた穹窿アーチ形の門があり、門をくぐると、荒れ果ててはいたが、花の一杯に乱れ咲いた前庭があり、その前庭には赭熊百合しゃぐまぐさ白菖マートルや、薄荷はっか麝香草じゃこうそうや、薔薇ばらすみれ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
家はいずれもさまざまで大きなものではなかったが、富裕な貴族の別荘か山荘とでもいった風情に、忍冬すいかずら常春藤きづたまとわりついた穹窿アーチ形の門があり云々〉というところがありますでしょう。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
忍冬すいかずらや昼顔の酔うようなかおりが、快い美妙な毒のように四方から発散していた。枝葉の下に眠りに来る啄木鳥きつつき鶺鴒せきれいの最後の声が聞こえていた。小鳥と樹木とのきよい親交がそこに感じられた。
そうして、宮の婦人たちは彼らの前で、まだ花咲かぬ忍冬すいかずらを頭に巻いた鈿女うずめとなって、酒楽さかほがいうたうたいながら踊り始めた。数人の若者からなる楽人は、おけ土器かわらけを叩きつつ二絃にげんきんに調子を打った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)