忌味いやみ)” の例文
乙羽おとわもまた紅葉の世話になった男である。が、乙羽もまた硯友社外の誰とでも交際したのが紅葉の気に入らないで折々忌味いやみをいわれた。
きょうもふと云い出したその忌味いやみを、相手は一向通じないように聞きながしているので、若いお浜の嫉妬心はむらむらと渦巻いておこった。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相変らず、忌味いやみったらしい薄笑いで、当然出なければならないお詫びを意味した挨拶が、いっこう出て来ないから
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ヤレ自然の美だ風韻ふういんだのと大層高尚こうしょうらしい事を唱える癖に今の文士はく下品な卑しい忌味いやみな文章を書きたがる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
仕方が無いから、苦情やら忌味いやみやらを言はれ/\、三里の山道を妓夫ぎふを引張つて遣つて来て見ると家の道具はもう大方持出して叩き売つて仕舞つたので、これと言つて金目なものは一つも無い。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
所詮しょせんかれは一個の道化役者に過ぎないのであろうが、あれほど忌味いやみのない道化を見せるのはむずかしいと、わたしは今でも彼に敬服している。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
無装飾のスッキリした、少しも体裁を飾らない、微塵みじん忌味いやみッ気がない江戸前の雑誌であって、正札附金三銅が貧乏書生に取ってはことうれしかった。
思い余ったお絹の口から忌味いやみらしいひと言がわれ知らずすべり出ると、林之助は少し顔をしかめて立ち停まった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ところが或る朝、突然を通じたので会って見ると、斜子ななこの黒の紋付きに白ッぽい一楽いちらくのゾロリとした背の高いスッキリした下町したまち若檀那わかだんな風の男で、想像したほど忌味いやみがなかった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
現にこのあいだ、お広が倉田屋へ買物に行った時にも、女房は口に針を含んでいるような忌味いやみを云った。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
半七の眼に映った若い男は、年のころ二十三四で、色の小白い、忌味いやみのない男振りであった。
仕舞にはだん/\に忌味いやみを云い出して、当世は武士より町人の方が幅のきく世の中であるから、せい/″\町人の御機嫌を取る方がよかろうと云うようなことをほのめかしたので
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「薄情ですねえ。お絹さんが化けて出ますぜ」と、豊吉は忌味いやみをいって帰った。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それがかえって一種の忌味いやみを伴うようにも感じられたが、一般からはさっぱりしていいとか、書生らしくていいとか言って喜ばれた。川上などもやはり飛白の筒袖を着て押し廻していた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)