徴兵ちょうへい)” の例文
その父が徴兵ちょうへいをきらったということは初耳はつみみである。それについて一言もしない母は、父からそれをきかなかったのであろうか。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
三寸の緑から鳴きはじめた麦の伶人れいじんの雲雀は、麦がれるぞ、起きろ、急げと朝未明あさまだきからさえずる。折も折とて徴兵ちょうへいの検査。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
鎮台兵は皆、徴兵ちょうへいの制で集めた民兵である。百姓商人の子弟でまだ訓練も充分でない。精鋭な薩南の兵と戦ってひとたび潰乱かいらんしたら殆ど脱走してしまうだろう。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戸長様こちょうさまの帳面前年紀とし六ツ、親六十で二十はたちなら徴兵ちょうへいはお目こぼしと何を間違えたか届が五年遅うして本当は十一、それでも奥山で育ったから村の言葉もろくには知らぬが
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
徴兵ちょうへい検査で、本籍ほんせきのある高知県に帰ったとき、特殊とくしゅ飲食店を開いている伯父おじさんから商売がら廃娼はいしょう反対演説を聞いたあと、こっちも一杯機嫌きげんで、あなたの話をほのめかすと、伯父さんは
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
清二せいじは、黄一郎の直ぐの弟だった。その下が、ゴム工場へ勤めている弦三げんぞうで今年が徴兵ちょうへい適齢てきれい。その下に、みどりと紅子べにこという姉妹があって、すえ素六そろくは、やっと十五歳の中学三年生だった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
徴兵ちょうへいの三年を朝鮮の兵営へいえいですごし、除隊じょたいにならずにそのまま満州事変に出征しゅっせいした彼の長兄が、最近伍長ごちょうになって帰ったことが正をそそのかしたのだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
腰の腫物はれもので座蒲団も無い板敷の長座は苦痛くつうの石山氏の注意で、雑談会ざつだんかいはやおら相談会に移った。慰兵会の出金問題しゅっきんもんだい、此は隣字から徴兵ちょうへいに出る時、此字から寸志を出す可きや否の問題である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「あったとも。メリケンで一もうけしてというんじゃが、じつをいうと、徴兵ちょうへいがいやでなあ。——今ならこれじゃ」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)