徳本とくごう)” の例文
広河内の土地のありさまは、中央日本アルプスの聖境、上高地の中、島々しましま方面から徳本とくごう峠を下り切った地点に、よく似ている。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
孝男さんと私とはその二、三日前、島々から徳本とくごう峠を越して上高地まで五時間あまりでかけつけた元気を以て——これはウソみたいな話だが本当である。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
其の頃上高地に行く人は皆島々から岩魚止いはなどめを経て徳本とくごう峠を越えたもので、かなりの道のりであつた。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
徳本とくごうは、普通輪樏で登る左の小さい谷に入って意外にひまどった。徳本の島々谷側は峠の東北側から一直線に底雪崩が下まで走っていた。たいていの谷から凄いのが出ていた。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
しかしなに御不足ごふそくでも医学博士いがくはかせ三角康正みすみかうせいさんが、この一かうにおくははりくだすつて、篤志とくしとまでもおんせず、すくな徳本とくごう膝栗毛漫遊ひざくりげまんいうおもむきで、村々むら/\御診察ごしんさつをなすつたのは、御地おんちつて
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
追々と開けて来る梓川の河原に林をなして生え茂ったドロ柳や川楊かわやなぎのしなやかな枝葉が河風に翻るのを美しと眺めて、足触りの柔い原始林の道を一直線に辿り、徳本とくごう峠の道と合してから
この峠に立ったなら、白峰は指呼しこの間に見えよう、信州徳本とくごう峠から穂高山を見るように、目睫もくしょうの間にその鮮かな姿に接することが出来ないまでも、日野春ひのはるから駒ヶ岳に対するほどの眺めはあろう。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
温泉宿から梓川に沿いて、河童橋を渡り、徳本とくごうの小舎まで来た、飛騨から牛を牽いて、信州へ山越しにゆく牧場稼ぎの人たちが、行き暮れて泊まるところだ。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
小仏こぼとけ峠、長尾峠、十国峠、三国峠、徳本とくごう峠、針ノ木峠……即座に思い出す秋の峠のいくつかである。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
長大なる日本アルプスの大山系にはいくらもある、槍ヶ岳にしたところで、もし上高地温泉がなくて、徳本とくごう峠から蝶ヶ岳、赤沢岳と迂廻して、この山に登るのであったら
上高地風景保護論 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
もっと地理的に説明すれば、上高地から松本へと、徳本とくごう峠を越えつつある私……
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
岩魚止いわなどめの破れ小舎に、一と休みして、いよいよ徳本とくごう峠にかかる、河原が急になって、款冬や羊歯が多くなり、水声が下から追っかけて来る、頭の上は、枯木が目立って白く
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
二十日 松本市より島々しましままで馬車、島々谷を溯り、徳本とくごう峠をえ、上高地温泉に一泊。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
神河内の在るところは氷柱つららの如き山づたいの日本アルプスの裏で、信濃南安曇郡が北にちぢまって奥飛騨の称ある、飛騨吉城よしき郡と隣り合ったところで、南には徳本とくごう峠——松本から島々しましまの谷へ出て
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)