彼地あっち)” の例文
この看板は誰がかいたのじゃ、日本人に描かしたのか、彼地あっちから持って来たのか。向うの下絵によって写したと。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「今年の秋は、嘉助も彼地あっちへ行商に出掛けるで、ついでくわしく様子を探って貰うわい——吾家うちでお嫁さを貰うなんて、お前さん、それこそ大仕事なんですよ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「はあ、丁度ちょうどここらでがすよ。あれ、あのもみの木の蔭から𤢖わろが出て来たので……。それから何でも大旦那は彼地あっちの方へ逃げたように思うのでがすが……。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この故に下関で朝鮮へお帰りかと訊くのは彼地あっちで成功しているという意味で、これも最大の敬意さ。土地相場でこれぐらい優遇を受ければ又以ってめいすべしじゃないか?
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
二年続けて、彼地あっちで煩らったもんですから、今年の春休みには、是非お帰んなさいって、姉さんも云ってあげるし、自分でも京都の寒さが不可いけないんだって、久しぶりで帰ったんです。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「オヤ厭だ……モウちっ彼地あっちの方へ行て見ようじゃ有りませんか」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「いいえ」と原はすこし改まったような調子で、「僕一人で出て来たんです。種々いろいろ都合があって、うちの者は彼地あっちに置いて来ました。それにまだ荷物も置いてあるしね——」
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「アメリカだよ。世界一は何でもアメリカだが、これこそ真実ほんとうに世界一だ。動物園が素晴らしいもので、猛獣の売買もやる。この間虎を競売に附した時の話が彼地あっちの新聞に出ていたよ」
髪の毛 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
書物と又聞またぎきでは歯痒はがゆくてならぬ、それに彼地あっちから渡って来る機械とても、果してそれがほんとうに新式のものであるやらないやらわからぬ、彼地ではもはや時代遅れの機械が日本へ廻って
何日いつだったか忘れたが、雨のふる日の夕方に、俺が町へ食物くいものあさりに出て、柳屋の門口かどぐちに立って彷徨うろうろしていると、酒に酔った奴等が四五人出て来て、の乞食め、彼地あっちへ行けと俺を突き飛ばした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
実は祇園の芸妓だがね、私がこの間、彼地あっちへ行っていたもんだから、路之助が帰るのに先廻りをして、私を便って来たらしい。またかと思う。……今いわれた時も慄然ぞっとしてこの通り毛穴が立ってら。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)