かげ)” の例文
向うに狗児いぬころかげも、早や見えぬ。四辺あたりに誰も居ないのを、一息のもとに見渡して、我を笑うと心着いた時、咄嗟とっさに渋面を造って、身をじるように振向くと……
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
対合むかいあった居附いつきの店の電燈瓦斯がす晃々こうこうとした中に、小僧のかげや、帳場の主人、火鉢の前の女房かみさんなどが、絵草子の裏、硝子がらすの中、中でも鮮麗あざやかなのは、軒に飾った紅入友染べにいりゆうぜんの影に、くっきりとあらわれる。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)