引被ひっかつ)” の例文
おまけに横須賀の探偵とかいう人は、茶菓子を無銭ただでせしめてんだ。と苦々しげにつぶやきて、あらねむたや、と夜着引被ひっかつぎ、亭主を見送りもせざりける。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女かれもいつか蒲団ふとん引被ひっかついで寝ていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
笠なしに山寺から豆腐買いに里へられた、小僧の時より辛いので、たまりかねて、蚊帳の裾を引被ひっかついで出たが、さてどこを居所いどころとも定まらぬ一夜の宿。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ずかと無遠慮には踏込み兼ねて、誰か内端うちわ引被ひっかついで寝た処を揺起ゆりおこすといった体裁……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と蚊帳の裾を引被ひっかつぐ、かいなが白く、扱帯しごきくれないが透いた時、わっと小児こどもが泣いたので
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
車馬しゃばの通行をめた場所とて、人目の恥に歩行あゆみも成らず、——金方の計らひで、——万松亭ばんしょうていと言ふみぎわなる料理店に、とにかく引籠ひっこもる事にした。紫玉はただ引被ひっかついで打伏うちふした。が、金方きんかたは油断せず。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
車馬の通行を留めた場所とて、人目の恥に歩行あゆみもならず、——金方きんかたの計らいで、——万松亭ばんしょうていというみぎわなる料理店に、とにかく引籠ひっこもる事にした。紫玉はただ引被ひっかついで打伏した。が、金方は油断せず。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)