しゃべ)” の例文
旧字:
ある寒い朝、十時ごろに楊枝ようじをつかいながら台所へ出て来た笹村の耳に、思い出したこともない国訛くになまりでしゃべっている男女の声が聞えて来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
真実ほんとに……。」と鼻頭はなさきで笑って、「和泉屋の野郎、よけいなことばかりしゃべりやがって、彼奴あいつあっしが何の厄介になった。干渉されるわれはねえ。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
兄が百姓をしていて、おととが土地で養子に行っていることも話した。養蚕時ようさんどきには養蚕もするし、そっちこっちへ金の時貸しなどをしていることもしゃべった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「こんなことは、四ツ谷なぞへ行って、あまりしゃべっちゃいけないよ。」お袋はこう言ってお庄に口留めをした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「君の評判は大したもんですぜ。」と和泉屋は突如だしぬけ高声たかごえしゃべり出した。「先方さきじゃもうすっかり気に入っちゃって、何が何でも一緒にしたいと言うんです。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
口からあわを飛ばして自分のことばかりしゃべっていた叔母の弟も、叔父の机のところから持って来た、古い実業雑誌を見ていながら、だんだん気が重くなって来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
東京で聞えた役者のことをこの母親もなにかとなく知っていて、独りで調子に乗ってしゃべった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鶴さんは感激したような調子で、しゃべるだけのことを弁ると、煙管きせるを筒に収めて帰りかけた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女のしゃべったりしたりすることを見ていると、暗いその部屋を起つのが億劫なほど、心も体も一種のものうい安易に侵されるのであったが、やはりいらいらした何物かに苦しめられていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母親から突き放されたこの幼児の廻らぬ舌でしゃべることは、自分自身の言語ことばのように、誰よりも一番よく父親に解った。いらいらしたような子供の神経は、時々大人をてこずらすほど意地を悪くさせた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
男達はみんなお島のしゃべる顔を見て、面白そうに笑っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)