建築たてもの)” の例文
近間におおき建築たてものの並んだ道は、崖の下行く山道である。峰を仰ぐものは多いけれど、谷をのぞくものは沢山たんとない。夜はことさら往来ゆききが少い。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孤独な、老い先のない身で、こんな大きな建築たてものをやって、彼は一体、何が満足なのだろう。単なる、普請狂ふしんきょうとも思われない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逃げ水屋敷と称された、特異の建築たてものであったということなど、もちろん解ってはいなかったが、その屋敷へ貝十郎に連れられ、二人で行ったことを思い出した。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勿論もちろん此樣こん絶島ぜつたうことだから、けつして立派りつぱ建築たてものではない、けれどなり巨大おほき板家いたやで、もんには海軍かいぐんいへ筆太ふでぶとしるされ、ながき、不恰好ぶかくかうへや何個いくつならんでへるのは
各国の領事館や銀行の立派な建築たてものが街々に並び、倉庫、桟橋、郵便局などが、到る所に並んでいる。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの座敷に寝ころんで見たら、房総ぼうそうの海も江戸の町も、一望ひとめであろうと思われる高輪たかなわ鶉坂うずらざかに、久しくかかっていた疑問の建築たてものが、やっと、この秋になって、九分九厘まで竣工できた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)