座右ざう)” の例文
旅の暇には、彼はたずさえている書物に読み耽るらしく、手垢てあかで黒くなった四五冊のむずかしい書物が、いつも彼の座右ざうにあるのでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
遊行上人はこういって、座右ざうの箱に入れてあった名号の小札を一掴ひとつか無造作むぞうさに取っておしいただくと、肩衣袴かたぎぬばかまを附けた世話人が
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あはれ座右ざうのポネヒル一度ひとたび声を発するを、彼処かしこに人ありてはるかに見よ、此処ここあたかも其の霧の如く、怪しき煙が立たうもの
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
オランダ公使から贈られた短銃たんづつも、愛用の助広すけひろもすぐと手の届く座右ざうにあったが、取ろうとしなかった。刺客しかくだったら、とうに覚悟がついているのである。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
座右ざうの文庫から、むぞうさにとりあげて、呂宋兵衛のほうへみせた書類! ヒョイとあおぐと、いつぞや、北庄城ほくしょうじょうの一室で、納戸襖なんどぶすまから合図あいずされて手へわたした
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
園丁これをオガタマの木と呼べどもわれいまだオガタマなるものを知らねば、一日いちにち座右ざうにありしはぎ先生が辞典を見しに古今集三木さんぼくの一古語にして実物不詳とあり。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
冬籠ふゆごもり座右ざうに千枚どうしかな
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
樺色かばいろの囚徒の服着たる一個の縄附をさしはさみて眼界近くなりけるにぞ、お通は心から見るともなしに、ふとその囚徒を見るや否や、座右ざうの良人を流眄ながしめに懸けつ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時この人の座右ざうの書冊、それは「安政三十二家絶句」というのを手に取ると、その中の紙をメリメリと引き破り、幾枚か引き破ってそれをまた細かにし
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
光秀も、安八郡の郷邸にいることは少なく、信長の座右ざうに、彼のすがたを見ぬ日は稀なくらいだった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅鞄たびかばんそのまゝ座右ざうに冬籠
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
『お座右ざうへ置くには足りませぬが、いずれ一口ひとふり、その心をもって鍛ったものを持って参りまする』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)