幽婉ゆうえん)” の例文
そは戦敗の黒幕におおわれ、手向たむけの花束にかざられたストラスブルグの石像あるがために、一層いっそう偉大に、一層幽婉ゆうえんになったではないか。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
即ち、よく歌うクライスラーや、快刀乱麻を断つのフーベルマンや、冷美幽婉ゆうえんのゴールドベルクに委ねるのになんの不思議があろう。
自然の生息いぶきそのままの姿態でそれがひとしお都会では幽婉ゆうえんに見えるのだったが、それだけまた葉子は都会離れしているのだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
辞世の歌の「限りあれば吹かねど花は散るものを心短き春の山風」の一章は誰しも感歎かんたんするが実に幽婉ゆうえん雅麗で、時やたすけず、天われうしな
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それがややもすれば幽婉ゆうえんの天地と同化して情熱の高潮に達し易い此頃このごろの人の心を表わしているようだ。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
高踏派の壮麗体を訳すに当りて、多く所謂いはゆる七五調を基としたる詩形を用ゐ、象徴派の幽婉ゆうえん体をほんするに多少の変格をあへてしたるは、そのおのおのの原調に適合せしめむがためなり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ことに歌麿板画のいひあらわしがたき色調をいひ現すにくの如き幽婉ゆうえんの文辞を以てしたるもの実に文豪ゴンクウルをいて他に求むべくもあらず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
第一楽章の幽婉ゆうえんさと第二楽章の優麗さに続いて、第三楽章の燃え立つような情熱と、その豪宕ごうとう壮快な美しきの対照は見事だ。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
庸三は松川のマダムとして初めて彼女を見た瞬間から、その幽婉ゆうえんな姿に何か圧倒的なものをほのかに感じていたのではあったが、彼女がそんなに接近して来ようとは夢にも思っていなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これも吹込みは新しくないが、世紀の三重奏団とも言うべきカサルス・トリオの傑作の一つで、この幽婉ゆうえんさは比類もない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
これを浮世絵に見れば鳥居派のほかあらたに奥村一派の幽婉ゆうえんなる画風と漆絵の華美なる彩色さいしき現はれぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一台のピアノから産み出す音楽として、これほど壮麗幽婉ゆうえんな芸術を、誰が果してショパン以前に想像し得たであろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
春信の板画の幽婉ゆうえん高雅にして詩味に富めるはむしろ科学の閑却にもとづけるものの如し。春信の男女は単にその当時の衣服を着するのみにしてその感情においては永遠の女性と男性とに過ぎざるなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その清新幽婉ゆうえんな演奏は誰でも魅了せずには措かない。惜しいことに評判は大したものだが、レコードは至って少く、コロムビアの世界名盤集の中にある一枚を除けば、僅かに二枚だ。