年長としうえ)” の例文
民助伯父おじ——岸本から言えば一番年長としうえの兄は台湾の方で、彼女の力になるようなものは叔父としての岸本一人より外に無かったから。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
が、こと二タ言話して見ると極めて世事慣せじなれていて、物ごし態度も沈着払おちつきはらっていて二つも三つも年長としうえのように思えた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
女は男より大分年長としうえで、醜い器量の、しかもひどい斜視なんですが、その眼がまたとても色っぽく、身のこなしもどこやらあだめいて、垢ぬけがしています。男は色白の美麗きれいな丸い顔をしています。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
一番年長としうえの娘は、ぐに夫れを父伯爵の手から借りて見て
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
これは少し私より年長としうえで、家は蒔絵職でした。
少年時代 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
という泉太の声が玄関の方でして、やがてこの年長としうえの方の子供は眼をまるくしながら学校通いの短いはかまのまま父のそばへ御辞儀に来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
麹町こうじまちの吉本さんの家で、例の応接間の大きなテエブルの前で、捨吉は自分の前に腰掛けながら話す四つか五つばかりも年長としうえな青木を見た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一つ上の半蔵とそこへむかい合ったところは、どっちが年長としうえかわからないくらいに見えた。年ごろから言っても、二人はよい話し相手であった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その時、年長としうえの岡見が正面まともに捨吉を見た眼には心の顔を合せたようなマブしさがあった。捨吉は何とも答えようが無かった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
岸本は愛子の口から——節子から言えば年長としうえ従姉妹いとこにあたる「根岸の姉さん」の口から、こうした噂を聞くように成ったことを楽しく考えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と言って、年長としうえの婦人は寂しそうに笑った。山歩きでもするように、宿から用意して来た握飯むすびがそこへ取出された。肥った女学生は黙って食った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
青木が芝の公園内へ引移る頃には短い月日の交際とも思われないほど、捨吉はこの年長としうえの友達に親しみを増して行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こんなことをお延が言って、年長としうえの従姉妹を笑わせた。お俊は釣瓶つるべの水を分けて貰ってたジャブジャブ洗った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そういう彼よりは六つか七つも年長としうえにあたるくらいの青年の僧侶そうりょだ。とりあえず峠の茶屋に足を休めるとあって、京都の旅の話なぞがぽつぽつ松雲の口から出た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お雪から見ると、曾根は年長としうえだった。お雪の眼には、憂鬱ゆううつな、気心の知れない、隠そう隠そうとして深く自分を包んでいるような、まだまだ若く見える女が映った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこには四男の和助までが、近所の年長としうえの子供らの仲間にはいりながら、ほっペたをあかくし、軽袗かるさんすそのぬれるのも忘れて、雪の中を歩き回るほど大きくなっていた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何を見るともなく、彼女は若々しい眼付をした。こうして親切にしてくれる、南清なんしんの方までも行った経験の多い、年長としうえな人と一緒に旅することを心から楽しそうにしていた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
十何年も前に弟子として、義理ある兄の寛斎にいたころから見ると、彼も今は男のさかりだ。三人の友だちの中でも、景蔵は年長としうえで、香蔵はそれに次ぎ、半蔵が一番若かった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「どうです、この二人は——何方どっちがこれで年長としうえと見えます」と復た正太が言った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
気の置けない男の客と違い、ことに親類中一番年長としうえのお種のことで、何となくお雪は改まった面持で迎えた。弟の家内の顔を見ると、お種は先ず亡くなったお房やお菊やお繁のことを言出した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)