常磐樹ときわぎ)” の例文
翠緑みどり眼醒めんばかりの常磐樹ときわぎが美しい林間の逍遥路を作り、林泉の女神の彫刻の傍にはいずれが女神と見紛う真っ白な肌もあらわ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
もう色のあるものと云っては、常磐樹ときわぎに交って、梅もどきやなんぞのような、赤い実のなっている木が、あちこちに残っているばかりである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
縁側を越えて、奥庭の広い芝生にあたる日光の流れや、常磐樹ときわぎの茂みに薄赤く咲き乱れる桜や、小鳥の囀りが聞える。何というおだやかな静かさであろう。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
東北ひがしきたに開けた窓の外には、細くてしかもつよかしの樹の枝が隣家の庭の方から延びて来ていて、もうそろそろ冬支度ふゆじたくをするかのような常磐樹ときわぎらしい若葉が深い色に輝いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
境内は常磐樹ときわぎのしとりで水を打ったかと思うばかり、ちりひともなしに、神寂かみさびまして、土の香がプンとする、階段のとこまで参りますと、向うでは、待っていたという形。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがてその新芽がだんだん延びて、常磐樹ときわぎらしく落ちついた、光沢のある新緑の葉を展開し終えるころには、落葉樹の若葉は深い緑色に落ちついて、もう色の動きを見せなくなる。
京の四季 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
此処で景子達は一寸ちょっと立止まって足を休めた。それから鬱蒼うっそうとして茂る常磐樹ときわぎの並木を抜けると眼前が急に明るく開けてロンドン市のずれを感ぜしめるコンクリートの広い道路が現われる。
ガルスワーシーの家 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
眼をよろこばせる常磐樹ときわぎのみどり。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
無人むにんの境だと聞いただけに、蛇類のおそれ、雑草が伸茂って、道をおおうていそうだったのが、敷石が一筋、すっと正面の階段まで、常磐樹ときわぎの落葉さえ、五枚六枚数うるばかり
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多くの常磐樹ときわぎの緑がここでは重く黒ずんで見えるのも、自然の消息を語っている。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)