布直垂ぬのひたたれ)” の例文
その男は、渋色の粽頭巾ちまきずきんをかぶって、汚い布直垂ぬのひたたれを職人結びに後ろでむすび、片膝たてて革胴かわどう草摺くさずりを大きな動作で縫っていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もちろん、幾人かは狩衣かりぎぬ布直垂ぬのひたたれの目あきもいて、何かとかんのわるい者の世話をして行くふうではあった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヨレヨレな布直垂ぬのひたたれに切れ草履の貧しげなる無位むい地下人ちげびと。かえりみては、つい、ひるまずにいられない。
よれよれな布直垂ぬのひたたれに、あかじみた肌着はだぎひとえ。——羅生門に巣くう浮浪児でも、これほどは汚くあるまい。もし、腰なる太刀たちを除いたら、一体何に間違われるか——だ。
泥まみれな布直垂ぬのひたたれに、頭巾をちまきにむすび、肩や袖にはほころびをみせ、いかにも殺伐さつばつ風采ふうさいであるばかりでなく、その足どりには、何かに追われているようなはやさがあった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くりやにちかい井戸屋根のもとに立ち、くみあげた水を、がぼがぼと飲む。そして、顔を洗い、その顔を、布直垂ぬのひたたれのきたないそでで、こすりこすり、庭をななめに歩いて行った。
よれよれな布直垂ぬのひたたれ一枚来て、冬のからッ風にふかれながら、父の忠盛の無心手紙を持っては
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それ以前から、摂津に来れば、ここに寝泊りもし、わけてこんどは、二十日も前から、天王寺村界隈かいわいに身をひそめていて、しばしば、ここに姿を見せたが、いつも布直垂ぬのひたたれの凡装で
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言ったのは、大勢の端で、犬をおさえていた布直垂ぬのひたたれの犬使いらしい男だった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
牛飼の童子まで、新しい布直垂ぬのひたたれを着ていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)