差伸さしのば)” の例文
婦人おんな右手めて差伸さしのばして、結立ゆいたて一筋ひとすじも乱れない、お辻の高島田を無手むずつかんで、づツと立つた。手荒さ、はげしさ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その途端、女房はキャッと叫んだ、見るとその黒髪を彼方うしろ引張ひっぱられる様なので、女房は右の手を差伸さしのばして、自分の髪を抑えたが、そのまま其処そこへ気絶してたおれた。
因果 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
慶三はその場にどっしり胡坐あぐらをかき大きな息をついたが、また何か急に思付いたように立上って、まず押入の襖を明けてその中を窺った後、次には窓際からくび差伸さしのばして頻に下の様子を窺おうとした。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お通はこれが答をせで、懐中ふところに手を差入れて一通の書を取出し、良人の前に繰広げて、両手を膝に正してき。尉官は右手めて差伸さしのばし、身近に行燈あんどんを引寄せつつ、まなこを定めて読みおろしぬ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兼太郎は人のいないのを幸い番台へ寄りかかって顔を差伸さしのばした。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すぐに、手拭を帯に挟んで——岸からすぐに俯向くには、手を差伸さしのばしても、ながれは低い。石段が出来ている。苔も草も露を引いて皆青い。それを下りさまに、ふと猶予ためらったように見えた。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)