山手やまのて)” の例文
「だって、おかみさんは何でしょう、弁天町に居たんでしょう。山手やまのてだってそのくらいな事は心得てるものがありますぜ、ちゃんと探索が届いてまさ。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昨日の三重子は、——山手やまのて線の電車の中に彼と目礼だけ交換こうかんした三重子はいかにもしとやかな女学生だった。
早春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昔は貧乏御家人ごけにん跋扈ばっこせし処今は田舎いなか紳士の奥様でこでこ丸髷まるまげそびやかすの、元より何の風情ふぜいあらんや。然れどもわが書庫に蜀山人しょくさんじんが文集あり『山手やまのて閑居かんきょ
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
背後うしろ山手やまのてでお寺の鐘が、陰に籠ってゴオオ——ンンと来ますと、私は、もうイカンと思いました。スヤスヤ寝入っとる大惣を揺り起いて耳に口を寄せました。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
学校の退けたのが午後四時、それから片町の友達を訪ねたところが、無理に引留められて、六本木の近くにある「山手やまのてホテル」へ着いたのは午後七時を過ぎた頃だった。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だから家の横にも前にも、その清冽せいれつな水が繞っていた。この辺には、異人館も皆無だったし、混血児の友だちもいないし、以前の山手やまのて環境とは、まったく空気がちがっていた。
新子も、うなずいてアカシヤの並木道を、山手やまのての方へ並んで歩き出した。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「床屋にも何にも、下町じゃ何てますか、山手やまのてじゃ、みんなが火の玉の愛吉ッていいましてね、険難けんのんな野郎でさ。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あらたに町制が敷かれたのと、山手やまのてに遊園地が出来たのと、名所に石の橋が竣成したのと、橋の欄干に、花電燈がいたのと、従って景気がいのと、もうかるのと
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(べらぼうめ、いくら山手やまのてだってこう、赤城に芝居小屋のあった時分じゃねえ、見物の居るめえ生命いのちの取遣りが出来るかい、向うがけの原ッまでついて来い、殺してやる、来い!)
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)