居辛いづら)” の例文
いつまでも政枝の側に坐っていると段々「生きなければならない理由」を政枝に云って聞かす約束が迫って来るようないらだたしい気がして居辛いづらかった。
勝ずば (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
八重田数枝のところに居辛いづらくなって、そうして、こんどは僕の家へ飛び込んで来て、自惚れちゃだめよ、仕事の相談に来たの、なんて、いつもの僕なら
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あたかも感覚が鈍くなったようで、お政が顔をしかめたとて、舌鼓を鳴らしたとて、その時ばかり少し居辛いづらくおもうのみで、久しくそれにかかずらってはいられん。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その反面に双方が倦怠けんたいを感じたのも事実で、しまいには何か居辛いづらいような気持もしたほど、周囲の雰囲気ふんいきに暗い雲が低迷していることも看逃みのがせないのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
丁度そんな話のあった頃から兼太郎は沢次の家にもどうやら居辛いづらいようになって来た。初めのうちは旦那の落目おちめに寝返りをしたなどと言われては以前の朋輩ほうばいにも合す顔がない。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「こうして私、しょっちゅう出歩いたり泊ったりしているでしょう。私もう、うちには居辛いづらくてしょうがないの……でねえ、あの話……どうなるの、早くきめてくれないこと?」
藤吉郎も居辛いづらくなり
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
始終働きづめでいるお島は、こんなところへ来て、偶に遊ぶのはそんなに悪い気持もしなかったが、落着のない青柳や養母の目色をうかがうと、何となく気がつまって居辛いづらかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自分は決していやだとも居辛いづらいとも、そんな妙な心持にはならなかったであろう。
或夜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
市子はその時分日蔭者ひかげものの母親がうらやましがったほど幸福ではなく、縁づいた亭主ていしゅに死なれ、しゅうとめとの折合いがわるくて、実家へ帰ったが、実家もすでに兄夫婦親子の世界で居辛いづら
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「どういう事情か知りませんが、この土地もちっと居辛いづらくなったそうで、本人が急に東京へ帰りたいと言ってよこしましたから、お父さん同道で、昨夜の九時の夜行で立って来ましたよ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女は居辛いづらかった田舎の嫁入先を逃げて来て、東京で間借をして暮していた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
浜町の出先の三階から落ちて打撲傷で気絶してしまい、病院へかつぎこまれてうなっていたと思うと、千七八百円の前借を踏み倒して、そこから姿を消してしまい、相撲の娘は売れないので居辛いづらくなり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)