寒冷紗かんれいしゃ)” の例文
百カ日が過ぎたばかりのまだごたごたとにぎやかな墓には、よれよれになった寒冷紗かんれいしゃ弔旗ちょうきなども風雨にさらされたまま束ねられて立っている。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
胸に嬰児を抱きながら、顔に依然として白布を下げた、姑獲鳥うぶめのような早瀬の姿は、やがて煙りか寒冷紗かんれいしゃのような、月光の中へさまよい出た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
種々いろいろな虫の形を土でこしらえて足は針金で羽根は寒冷紗かんれいしゃまたは適当な物で造り、色は虫その物によって彩色を施し、一見実物に見えるよう拵えるのです。
その音調は全くの東京ものである。余は突然立って、窓の外を眺めた。あいにく窓には寒冷紗かんれいしゃが張ってあった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこには、真新しい寒冷紗かんれいしゃづくりの竜幡りゅうはんが二りゅうハタハタとうごめいている新仏にいほとけの墓が懐中電灯の灯りに照し出された。墓標ぼひょうには女の名前が書いてあったが覚えていない。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
俺は貧乏人だから絹が買えないといって、寒冷紗かんれいしゃの裏へ黄土を塗って地獄変相図を極彩色で描いた。
ベッドの上に掛け回したまっ白な寒冷紗かんれいしゃ蚊帳かやの中にB教授の静かな寝顔が見えた。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし全体の風采ふうさいには非常に上品オー・トンな様子がある。彼女は上等なインド寒冷紗かんれいしゃでこさえた大きな美しい包屍布かばねまきを優美にすらりと着ている。髪の毛はくびのところへ捲毛をなして下っている。
いわしとかいう廻游魚類が、沿岸に寄って来る理由はタッタ一つ……その沿岸の水中一面に発生するプランクトンといって、寒冷紗かんれいしゃの目にヤット引っかかる程度の原生虫、幼虫、緑草、珪草
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白い寒冷紗かんれいしゃひだつき西洋寝巻きをつけて、そのそばに立ちながら涼んでいた。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
あのフィリッピンの婦人の着物で見るような寒冷紗かんれいしゃというものが行われてから、かなり土人の体力を弱めている。この方面の伝道師には英国人が多いが、英人でなくともこういう地位の人は物固い。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
サアベルの音、くつの音、馬のいななく声、にわかにあたりは騒々しくなった。夜は町の豪家のかどに何中隊本部と書いた寒冷紗かんれいしゃぬのが白く闇に見えて、士官や曹長が剣を鳴らして出たりはいったりした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)