富樫とがし)” の例文
これは越前の斎藤家から出た有名なる富樫とがし家の庶族であるらしく、加賀の河北郡の木越村に住んでおったから家号となったのである。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「こいついよいよ関所だわえ。安宅あたかの関なら富樫とがしだが鼓ヶ洞だから多四郎か。いやにらみのかねえ事は。……あいあいそれがし一人にて候」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
富樫とがしつて申します。学校時代、ランニングで鳴らしたんですわ。こちらが、園長先生の旦那様……。学校の先輩よ、あなた……。
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
加賀国富樫とがしと言う所も近くなり、富樫のすけと申すは当国の大名なり、鎌倉殿どのよりおおせこうむらねども、内々用心して判官殿ほうがんどの待奉まちたてまつるとぞ聞えける。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また、響きに応じて、加賀の富樫とがし能登のとの吉見、信濃の諏訪すわ、そのほか、事を好む豪族は、みな彼が尊氏から離れたことを惜しむよりは歓迎していた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叔母はつれの婦人たちと殿さまの弁慶のすぐれてよかったこと富樫とがしをつとめた観世なにがしの美貌であったことなどを、その混雑のなかで話し興じていた。
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたしは義経の家橘をむやみにい役者だと思った。渥美五郎の御注進でわたしを喜ばせた左団次の富樫とがしも、ここではあまりわたしをよろこばせてくれなかった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先ず山名政豊は将軍に降り、次いで富樫とがし政親等諸将相率いて、東軍に降るに至った。けだし将軍義政が東軍に在って、西軍諸将の守護職を剥奪はくだつして脅したからである。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
読んでいる、これじゃ富樫とがしというものが、全然ボンクラになってしまう……義経もこれじゃ助からない
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そっと近寄り富樫とがしもどき、相手の肩越しにのぞきこんだ。チェッという舌打ちの音、人の気配を感じたらしい。ヒラリ振り返ったが抜き打ちだ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「勧進帳」で左団次の富樫とがしが舞台に出ると、例の「加賀国かがのくにの住人……」の台詞せりふがひどくふるえたということや、「忠臣蔵」三段目の裏門外へ駈け付ける家橘の勘平が
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
富樫とがしにしちゃあ出来過ぎてらあ、第一、手前たちは富樫というつらじゃねえ