安逸あんいつ)” の例文
あらゆる現世的な歓楽や安逸あんいつを無視して、——実はジャーナリズムに駆使されながら、——命を縮める思いで働いているのである。
それによってひらかれるであろうはかない最後の安逸あんいつを、早くもぼんやりと脳裡にえがいて、ひとりでに足の運びもはかどるのであった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
秀才だの半分天才などというものはもう無限の自由の怖しさに堪えかねて一定の標準のようなもので束縛そくばくされる安逸あんいつを欲するようになるのである。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
安逸あんいつが嫌いで波瀾をこのむ、ぼんやりと物を見流さないで探奇心の目が光る。軽快であるはいいが争気そうきが強い。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
懐旧の情のおもむくままにわがままに筆を運ぶつもりであるから、読者も我慢強い王様にでもなった気で、私の安逸あんいつとがめられることがなければ、しあわせである。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
苦労することを恐れて安逸あんいつをむさぼりたいと思うからこそ、少しのことに泣き言がいいたくなるのである。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
かつて一度も安逸あんいつというものを、かつて一度も青春ののんきな怠慢を知らなかった。
僕の妻としてのみ、あなたはそこへ這入ることが出來ます。僕の妻になることを否んで御覽なさい。するとあなたは永久に利己的な安逸あんいつと無價値ないやしいわなにあなたの身を閉ぢ籠めるのです。
魂は決して安逸あんいつ懶惰らんだを願わない。魂は永遠に知識の前進に対する欲求を棄てない。人間的慾情、人間的願望は肉体と共に失せるが、魂には純情と進歩と愛との伴える、浄き、美しき生活が続く。
安逸あんいつむさぼってやがったのだから……)
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
安逸あんいつの、醜辱しうじよくの、驕慢けうまんもりの小路よ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
こうしているまに自分もつい安逸あんいつに馴れて、何も世にのこさぬうち老将の群れに入るのかと考えたら、堪らなく悲しくなって参ったのです——と、沁々しみじみ、嘆息をもらしたという
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安逸あんいつすぎる日に馴れることを——討入前の心に変化の来ることを惧れるのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)