天鵝絨ビロード)” の例文
弧の内面には美しい笹を青天鵝絨ビロードのようにくけて、其上に銀を象嵌した金字形の八海山と中ノ岳とが程よく安置された据物のようだ。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
お前が夢にもこの夕ぐれ時の天鵝絨ビロードのように静かな、その手触りのつめたさをかき乱そうなどと大それた望みをもつものでないことは判っている。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
地形の波面なみづら木立こだち田舎家いなかやなどをたくみたてに取りて、四方よもより攻寄せめよするさま、めづらしき壮観みものなりければ、近郷きんごうの民ここにかしこにむれをなし、中にまじりたる少女おとめらが黒天鵝絨ビロード胸当ミーデル晴れがましう
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
天鵝絨ビロードのように生えた青草の上に、蛋白石オパールの台を置いて、腰をかけた、一人の乙女を囲んで、薔薇や鬱金香チューリップの花が楽しそうにもたれ合い、小ざかしげな鹿や、鳩や金糸雀カナリヤが、静かに待っています。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
赤い天鵝絨ビロード色がしはじめた。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
式部官が突く金総きんぶさついたるつえ、「パルケット」の板に触れてとうとうと鳴りひびけば、天鵝絨ビロードばりの扉一時に音もなくさとあきて、広間のまなかに一条ひとすじの道おのづから開け、こよひ六百人と聞えし客
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
下に張ってある殷紅色の天鵝絨ビロードと皿の艶とが衝突する。——
伊太利亜の古陶 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)