増上寺ぞうじょうじ)” の例文
しば増上寺ぞうじょうじ涅槃会ねはんえへ往っていた権八郎がその夜霍乱かくらんのような病気になって翌日歿くなり続いて五月二十七日になって女房が歿くなった。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
甲板でハース氏に会うと、いきなり、しば増上寺ぞうじょうじが焼けたが知っているか、きのうのホンコン新聞に出ていたという。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
むかし芝の鐘は切通きりどおしにあったそうであるが、今はそのところには見えない。今の鐘は増上寺ぞうじょうじの境内の、どの辺から撞き出されるのか。わたくしはこれを知らない。
鐘の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
目黒界隈かいわいはもと芝増上寺ぞうじょうじの寺領であったが、いつのころか悪僧どもが共謀して、卑しい手段で恐ろしい厳しい取立てをした、その時村に権之助という侠客がいて
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
その中には、開城の前夜にしば増上寺ぞうじょうじ山内の大総督府参謀西郷氏の宿陣で種々さまざまな軍議のあったことも出て来た。城を請け取る刻限も、翌日の早朝五ツ時と定められた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
葉子の胸をどきんとさせるほど高く、すぐ最寄もよりにある増上寺ぞうじょうじの除夜の鐘が鳴り出した。遠くからどこの寺のともしれない鐘の声がそれに応ずるように聞こえて来た。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
やがて、その息で、増上寺ぞうじょうじの山内へはいった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
滅びた江戸時代には芝の増上寺ぞうじょうじ、上野の寛永寺かんえいじと相対して大江戸の三霊山と仰がれたあの伝通院である。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
増上寺ぞうじょうじ前に来てから車をやとった。満月に近い月がもうだいぶ寒空さむぞら高くこうこうとかかっていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
柳床やなぎどこと言って、わざわざ芝の増上寺ぞうじょうじあたりから頭を剃らせに来る和尚おしょうもあるというほど、剃刀かみそりを持たせてはまず名人だと日ごろ多吉が半蔵にほめて聞かせるのも、そこに働いている亭主のことである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けれども我が木造の霊廟は已にこのあいだも隣接する増上寺ぞうじょうじの焔におびやかされた。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
溜池ためいけ屋舗やしきの下水落ちて愛宕あたごしたより増上寺ぞうじょうじの裏門を流れてここおつる。
折から耳元近く轟々ごうごうと響きだす増上寺ぞうじょうじの鐘の声。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)