垂幕たれまく)” の例文
やがて垂幕たれまくをわけ、しずしずとあらわれたのは、裸の上に、椰子の枯葉であんだ縄のようなものを、長くたらした奇怪なクイクイの神であった。
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宮守をはずれたところでそっと垂幕たれまくを上げて見ると、目に見える限りがぼっと白く、重い幕を垂れたようになっている。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
「おい、君、もう一杯ここでやって行こう。」と、海老茶えびちゃ色をした入口の垂幕たれまくを、無造作むぞうさに開いてはいろうとした。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何とはなし重っ苦しい垂幕たれまくの様な沈黙をやぶって口を開くのは大抵の時は千世子であった。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
奥まった垂幕たれまくをはじいて、一同の黒い袋の代わりに、同じ作りの白い袋を着た、背の高い人物が現われるとうしろに二、三の黒い袋を従えて、それが広間中の黒い袋のあいだを縫って歩く。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
宿屋を出て、町の街道とおりにくると、出たところに白い布の垂幕たれまくをおろした、小さな箱形の馬車が二台並んでいた。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
垂幕たれまくをあげて入ると、中は満員であった。やっと、二人が立つと、すぐ麻雀が始まった。
茶色っぽい町 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
珠玉しゅぎょくちりばめた翡翠色ひすいいろの王座にしょうじ、若し男性用の貞操帯というものがあったなら、僕は自らそれを締めてその鍵を、呉子女王の胸に懸け、常は淡紅色たんこうしょく垂幕たれまくへだてて遙かに三拝九拝し
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鶯色うぐいすいろ緞子どんす垂幕たれまく、「美人戯毬図びじんぎきゅうず」とした壁掛かべがけの刺繍ししゅう、さては誤って彼がふちいた花瓶までが、かつて覚えていたと同じ場所に、何事もなかったかのように澄しかえって並んでいたのだった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)