かじ)” の例文
最も甚しいのは親のすねかじっている学生や部屋住の身分で畳付の駒下駄を足の先へつっかけて歩くような不所存者もあります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私も少しは漢方医の事は聞きかじって居るものですから、それでまあどうにか自分の知って居る範囲内で薬を盛ってやりますと不思議に病人が治るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
作ってるんじゃないか。しかしどんな時代でも、農民は土にかじりついてさえいれば食いっぱぐれはない。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そんななかに育ちながら、成斎は野良仕事を助けようとはしないで、日がな一日青表紙にかじりついてゐた。
実際、物の役にも、何んにも立たないんだから——附人に斬られてしまうか、吉良の小者と、かじりっこをして、鼻の頭でも、食いちぎられるか?——下郎は、下郎らしく——
寺坂吉右衛門の逃亡 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ひとついきなりかじりついてどのくらい俺が苦しめられているか思い知らしてやろうかしらん
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
鼠がさつきからがり/\と、どこかそこらの天井の中で何をかかじつてゐるのが気になる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
それまでは、素振りにも見せなかつたお才が、ある日、私が物置の片付けをして居ると、用事があつて物置へ來たお才が、いきなり私にかじり付いて氣でも違つたやうに泣くのです。
いくらかかじった柔道と、草角力の大関までのぼったことのある、四十八手の裏表と——悲しみに似た、いいようもない憤りに駆りたてられて、金五郎は、ぶっつかる敵を、片はしから
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
田舎でがらにもない皇学をかじったり、また、それを、流行はやりものの、勤王運動とやらの実行に移そうとして、八州はっしゅうぎつけられ、それで、ご当家の、平岡円四郎殿へ、縁故をもってすがって
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜もけて来るにつれ、寝苦しく物に襲われるようで、戸棚をかじる鼠も怖しく、遠い人の叫とも寂しい水車の音ともかぬ冬の夜の声に身の毛が弥立よだちまして、一旦吹消した豆洋燈ランプを点けて
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
菊池容斎は寺納豆てらなつとう、藤田東湖は訥庵と同じやうに鰻の蒲焼、森春濤しゆんとう蚕豆そらまめ生方鼎斎うぶかたていさいはとろゝ汁、椿椿山つばきちんざん猪肉やまくぢら、藤森弘庵は鼠のやうに生米なまごめかじるのが好きで好きで溜らぬらしかつた。
親爺というものは、そのすねかじられていても感じないし
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
弟の八十三郎が、時々、外から何か聞きかじって来ては
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)