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生命いのちのかぎりを啼きすだく虫の秋を、ここにもまた、生命のまたたきを灯に惜しむ、ふたりの熊野の曲が、野水のくように、かきの外まで聞えていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それについてお前に頼みがあるのだが——」病人は破けた風琴のやうに悲しさうにまたき入つた。「その千円は世界中でお前が一番いやしいと思ふ人間に呉れてやつて欲しいのだ。」
その青春もさかりにかかって、薄い痩身そうしんんでくるしそうにせきいている姿などを見かけると、家臣は胸を傷めただけでなく暗然ともしたものだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
云いすてると、勝手を知った本丸の第一の間の上段に坐り、後から息をいて追いついて来た家臣たちを顧み
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
放たれた小鳥のように、彼女の姿が、真ッ暗な風のなかへ、ばたばたと消えてゆくとすぐに、そこへ、息をいて来た加山耀蔵は、憤然と、友の腕くびを引っ掴んで
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
息をいて馳けて来た与四郎兵衛が、切腹部屋の前まで出揃った人々を見て、手を振った。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「一大事が起った」と、あわただしく、陳宮を呼びだして、息をきながら告げていた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——こう寒うては、お城の若様がまた、おせきいてばかりいることだろう」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸いにも、京の町では誰にもとがめられなかった。そしてやがて、息をいて上ってゆくのは叡山えいざんふもとだった。彼の心には常にこの山があった。この山は範宴にとって、心の故郷ふるさとなのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駈け過ぎようとした一人の若侍が、息をいてそれへ引っ返して来た。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥へ駈けこんだ孫六は、く息もつかず、一気に寝所の内へ告げた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元成もとなりは、正成の姿を見ると、すぐきあげるように、こういった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここの人だかりに、さてはと息をいて来た清十郎は
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
追いついて来るなり、息をいていう。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、息をいて、激しく叩いた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)