呑舟どんしゅう)” の例文
この垣よりも大いなる穴がある。呑舟どんしゅうの魚をもらすべき大穴がある。彼は垣はゆべきものにあらずとの仮定から出立している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一網打尽にして、呑舟どんしゅううお雑魚ざこも逃さないようにするには、相当に大きい網が必要さ、花房一郎は今その網を張って居るのだよ
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
これは畢竟ひっきょう量を見るに急なために質を見る目がくらむのであり、雑魚ざこを数えて呑舟どんしゅうの魚を取りのがすのである。
量的と質的と統計的と (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
逃げ散ったものはお構いなし、すでにこの呑舟どんしゅうの魚であるところの道庵先生を得ているのだから——
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
貴族院議員、正四位、勲三等、子爵、赤沢事嗣あかざわことつぐ……これが金毛九尾の古狐で、今度の事件の一番奥から糸を操っている黒頭巾くろずきんだ。君等がよく取逃がす呑舟どんしゅううおという奴だ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
日本左衛門という呑舟どんしゅうの大魚は、遂にその晩、それ以上の追捕をつくすべくもありませんでしたが、ともあれ、聖天しょうでん穴以来、一同の心をなやましていた仮面めんだけでも
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ウム、どうやら呑舟どんしゅうの大魚が掛ったようだぞ。こりゃ面白い。頭で綱引つなびきと来るか」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三つになったばかりの早春死んだ女児の、みめうるわしく心もやさしく、釣糸噛み切って逃げたなまずは呑舟どんしゅうの魚くらいにも見えるとか、忘却の淵に引きずり込まれた五、六行の言葉
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
然して威令の行わるる所、既に前にて後に仰ぎ、聡明の及ぶ所、反って小を察して大をわする。貧者は獄に入りてわざわいを受け、富者は経を転じて罪を免る、これ傷弓しょうきゅうの鳥を取り、つね呑舟どんしゅうの魚を漏す。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)