ぼん)” の例文
退屈なので、馬の眼やにでも取っているのか、鼻面をでてやっている容子が、常の源五右衛門らしくもなく、何となくぼんやりして見えたので
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お俊はそう言って自分らしくもないと思ってあかくなったが、きよ子はべつに何も思っていないらしくぼんやりとしていたが、ふと、こんなことを言った。
童話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
お雪は、ぞっとするほど碧く澄んだ天地の中に、ぼんやりとしてしまった。皮膚にまで碧緑あおさがみこんでくるように、全く、此処ここの海は、岸に近づいてもあい色だ。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
医者は自分の手術料まで鵜飲みにされたやうな顔をして、ぼんやり衝立つゝたつてゐた。
「えゝ」と云つて、ぼんやりしてゐる。やがて二人ふたりが顔を見合した。さうして一度に笑ひした。美禰子は、驚ろいた様に、わざと大きなをして、しかも一段と調子をおとした小声こごゑになつて
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それまで私は何というぼんやりした、うつけた気持ちでいたことであろう。——こんどは、床の上にそっと置いた。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「しようがねえ奴らだな。じてえ、お前たちが、ばかな真似まねをされるように、ぼんやりしてるからだ。」
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
朝市には、ニースに滞在している人たちが、買出しかたがた散歩に出てにぎわしかった。お雪はまたぼんやりしてしまった。花の香に酔ったように、差出されるままに買いこんでは抱えた。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お雪は、碧い光りの中にぼんやりしてばかりいられなかった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)