取附とっつき)” の例文
人仕事ひとしごといそがわしい家の、晩飯の支度は遅く、ちょう御膳ごぜん取附とっつきの障子をけると、洋燈ランプあかし朦朧もうろうとするばかり、食物たべものの湯気が立つ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と清左衞門こと/″\く悦んで、ニコ/\しながらうちに帰って来ました、娘お筆は、寒さの取附とっつきだと云うにまだ綿の入った着物が思うように質受しちうけが出来ず
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
附けると云う取附とっつきだけはしらせて呉れねば僕だッて困るじゃ無いか(谷)其取附と云うのが銘々の腹に有る事で君のく云う機密とやらだ互いに深く隠して
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
古本屋の前に来ると、僕は足をめてのぞく。古賀は一しょに覗く。その頃は、日本人の詩集なんぞは一冊五銭位で買われたものだ。柳原の取附とっつきに広場がある。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
這入はいると女はすぐ消えてしまう。そうして取附とっつきの客間——始めは客間とも思わなかった。別段装飾も何もない。窓が二つあって、書物がたくさん並んでいるだけである。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人影も見えないのは、演義三国誌常套手段おきまりの、城門に敵をあざむく計略。そこは先生、武辺者だから、身構えしつつ、土間取附とっつきの急な階子段はしごだんきっと仰いで、大音に
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折り「何所どこだ、何所です」と急ぎ問う「三階ですよ、三階の取附とっつきです、本統ほんとうア此様な正直な家の中で、それに日頃あの正直な老人を」と老女が答えきたるを半分聞き直様すぐさま段梯子を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「あの取附とっつきの山かい。あれを越しちゃ大変だ。これから左へ切れるんさ」
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)