十字架くるす)” の例文
十字架くるすかかり死し給い、石の御棺ぎょかんに納められ給い、」大地の底に埋められたぜすすが、三日ののちよみ返った事を信じている。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それからすすびた壁の上にも、今夜だけは十字架くるすが祭ってある。最後に後ろの牛小屋へ行けば、ぜすす様の産湯うぶゆのために、飼桶かいおけに水がたたえられている。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしそれには生死を問わず、他言たごんしない約束が必要です。あなたはその胸の十字架くるすに懸けても、きっと約束を守りますか? いや、——失礼はゆるして下さい。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
またあるものはその十字架くるすの上に、I・N・R・Iの札をうちつけた。石を投げ、つばを吐きかけたものに至っては、恐らく数えきれないほど多かったのに違いない。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこでこの伴天連ばてれんは、輿こしの側へ近づくと、たちまち尊い十字架くるすの力によつて難なく悪魔を捕へてしまつた。さうしてそれを南蛮寺の内陣ないじんへ、襟がみをつかみながらつれて来た。
悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「あら、痛や。又しても十字架くるすに打たれたわ。」とうめく声が、次第に家のむねにのぼつて消えた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、クリストが十字架くるすにかけられた時に、彼をくるしめたものは、独りこの猶太人ばかりではない。あるものは、彼に荊棘いばらかんむりいただかせた。あるものは、彼に紫のころもまとわせた。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
記録の語る所によると、クリストは、「物に狂うたような群集の中を」、パリサイの徒と祭司さいしとに守られながら、十字架くるすを背にした百姓の後について、よろめき、歩いて来た。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「何としてさほどつれないぞ。」と、よよとばかりに泣い口説くどいた。と見るや否や隠者の翁は、さそりに刺されたやうに躍り上つたが、早くも肌身につけた十字架くるすをかざいて、霹靂はたたがみの如くののしつたは
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
誰やら柴のとぼそをおとづれるものがあつたによつて、十字架くるすを片手に立ち出でて見たれば、これは又何ぞや、藁屋の前にうづくまつて、うやうやしげに時儀じぎを致いて居つたは、天から降つたか、地から湧いたか
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)