勢込いきおいこ)” の例文
三筋みすじばかりたがやされた土が、勢込いきおいこんで、むくむくとき立つような快活なにおいめて、しかも寂寞せきばくとあるのみで。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取次に出た書生が、名刺を握って、何かしら勢込いきおいこんで主人の居間に入って来た。見ると、その名刺には、待兼まちかねた「三笠龍介」の名が大きく印刷してあった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
白根葵の咲いた崖腹を一町ばかり行くとまた屏風が始まる、一曲して鋭く右に折れた河の中では、花崗片麻岩の大塊が脊較せいくらべをして、水は其上を勢込いきおいこんで駆け上り駆け下りている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
相手かまわず問わずがたりの勢込いきおいこんでまくしかけ、「如何いかに兄がほんが読めるからって、村会議員そんかいぎいんだからって、信者だって、に二つは無いからね、わたしは云ってやりましたのサ」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「まあ立ん坊だね」と甲野さんはさびし気に笑った。勢込いきおいこんで喋舌しゃべって来た宗近君は急に真面目まじめになる。甲野さんのこの笑い顔を見ると宗近君はきっと真面目にならなければならぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勢込いきおいこむ、つき反らしたステッキさきが、ストンと蟹の穴へはさまったので、厭な顔をした訓導は、抜きざまに一足飛ぶ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は勢込いきおいこんで話し始めた。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)