おま)” の例文
秘かに想ひを寄せてゐた照子は、勝ち誇つたやうにかたづいてしまつたし——おまけに高を括つてゐた学校は落第してしまつたし、……。
明るく・暗く (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
第一文章がまるで成つて居らず、おまけに無禮な調子であると訂正されるうちに、作文でも手紙でも私は、眞に考へたことや感じたことを、そのまゝ書くべきものではなく
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「煩いよ、算術みたいなことを云ふな。何と云つたつて病はされ方が貴様とは違ふ。おまけに俺は貴様のやうな、あんな、柄の長いうち……」
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
銅像になつて働くとは一体何のことなのか? おまけに嘗て聞いたこともない銅像が、何とまあこの市には至る処に散在してゐることだらう
山彦の街 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「そうツと歩かなくつたつて、こんなやはらかな草の上を、おまけにそんな草履で歩いて来られゝば解りつこないさ。」
R漁場と都の酒場で (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
学問嫌ひの奴なんていふものは大抵学問を軽視し得るだけの何かの自信を持つてゐるやうだが、俺は、生れながらに自信を忘れておまけに学問嫌ひと来てゐる。
夏ちかきころ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
おまけにこの日の話といふのは、町役場に買ひあげられた書状に依ると、私は既にその土地を抵当にして叔父から金を借りてゐるといふことになつてゐるのだ。
熱い風 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
然も自ら切符を買ふこともせず、おまけに文章を書く目的で芝居へ来るなんて、まつたく始めての経験だ。
思ひ出した事(松竹座) (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
おまけに歌妓には逃げられ——悶々の情遣方なく此の酒場で毎夜憂さを晴してゐる気の毒な身であつた。
歌へる日まで (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
おまけにそんな想ひを胸のうちに萌してゐるせゐか、折角機嫌の健やかなレディと相対してゐるにも関はらず、私の背中には冷い恥に似た風が始終に吹きとほしてゐて
心象風景(続篇) (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
おまけに臆病馬で、虻が一尾腹にとまつても激しく全身を震はせて飛びあがつたり、牝馬に出遇ふと己れの廃齢たるも打ち忘れて機関車のやうに猛り立つたりする態に接すると
おまけに勤めを口実にして俺達飲仲間からはすつかり遠ざかつて、まるで孤独の生活を繰返してゐるが、好くもあんなに辛抱が出来たものだ——などゝ不思議がり、若しかすると
風媒結婚 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「それが、もつと体格でもいゝんなら兎も角、ちんちくりんの痩ツぽちでさ、おまけにだぶだぶに延びちやツてる股引がイヤにずりこけて、あんなものはいて行かないがいゝのに。」
熱海へ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
おまけに小母さんと斯んな会話を取り交すのは何よりも退屈な気がしてならなかつた。
(新字旧仮名) / 牧野信一(著)
おまけに村境ひの馬頭観音の前に、風もないのに吹雪男が現れたといふ噂ではないか。
鬼の門 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
腰には今にも輪のまゝにすつぽりとずり落ちさうな太い黒色のメリンスの兵児帯を憎態にくていに巻きつけ、おまけに棒のやうに貧弱な脚の先きには、武骨な庭下駄を突ツかけてゐたのである。
環魚洞風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「あれは少々抜作だ。おまけに面も随分振つてゐるね。」父は大きな声で笑つた。
父を売る子 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
たしか一時間も眠つてはゐない! おまけに二三日前まで烈しい徹夜を続けて創作に耽つてゐた後の、夥しい睡眠不足が一途に発して、立ちあがつたものゝ、こんにやくのやうに疲れてゐて
小川の流れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「いや、あいつは親爺が死んだ時でも天気さへ好ければドリアンを乗り廻して来ずには居られないといふほどの奴なんだよ。おまけに競馬が近づいたので此頃ぢや晩まで競馬場で暮してゐる。」
ダイアナの馬 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
まア繰り返し/\かけて、おまけにね、変に首なんて振りながら自分もそつと口のうちで歌に合せたりしてゐるんですよ。屹度遊びに行つた時に歌はうと思つて習つてゐたに違ひありませんわ。
熱海へ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
現在住んでゐる町はづれの傾きかかつて彼方此方に支柱がかつてある家には、樽野の部屋がなかつたし、おまけに、いろいろな悲しい事情を持つて東京からその身を寄せて来た妻の兄妹きやうだい達が居た。
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「歩くつたつて、人車ぢやないか。おまけに岩吉がゐるんだし……」
熱海線私語 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
おまけに相手が僕の場合なんだから色々と好都合ぢやないか。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「今朝ツからどうもこれに酷い目に遇ひつゞけで……おまけに今日は馬車がおそろしく混んで、その中で始めから終ひまでこの通りで、もうさん/″\でござんした。」と云ひながら父親は「仙二郎、おとなしくしねエか。うちぢやねエんだぞ。」と叱つたが少しも父親の威厳はとほらず却つて仙二郎はワツと大声を
鞭撻 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)