えぐ)” の例文
と悲鳴を上げるのを、ウヽーンとえぐりました。苦しいから足をばた/\やる拍子にふすまが外れたので、和尚が眼を覚して
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、唇をかんだ金吾は、えぐるような彼の声に、歩足の自由を奪われたかの如く、まッたく色を失いかけました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「寧ろこの使用つかい古るした葡萄ぶどうのような眼球めのたまえぐり出したいのが僕の願です!」と岡本は思わず卓を打った。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
上部に於ては底はや平であるが、左右の岩壁は、鹿島槍側に竪立し、五竜側に二段にえぐれ込んでいる。
八ヶ峰の断裂 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
現在の恋愛に胸をえぐるやうな鋭さがあり、身を殺すやうな劇烈な作用があつて見れば、何も未知の女の己の上に加へようとする匕首ひしゆや毒薬を顧みるには及ばない。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
ひゅうひゅうと云うのは、切られた気管の疵口きずぐちから呼吸をする音であった。お蝶のそばには、佐野さんが自分のくびを深くえぐった、白鞘しらさやの短刀のつかを握って死んでいた。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
腕をえぐつて毒箭どくやの毒をぬかせた関羽くわんうもどきに、小生はぽかんと立つてぬつと両手を出して居れば、阿姪あてつが笑ひ/\縫い上げをなし終りぬ。シヤツの肩上げは済みたり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
それは定基の身体のあらゆるところを深く深くえぐりまわろうとした。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
えぐり込んだようになっているのが見おろされる。
烏帽子岳の頂上 (新字新仮名) / 窪田空穂(著)
「馬鹿爺親じじい、俺の胸の肉をえぐらすつもりか。」
連城 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
頂上から西の方へ延びた尾根と私達の居る山稜とに抱かれた谷は、山の名に背かない赭色の大崩れが、絶頂から半円形を成してえぐり取られたように長く下まで続く。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
言々句々、毒をふくむうちに明白な理をもって、えぐるが如きかれの罵倒ばとうに、金吾の真ッ正直な理性と血気とは、グッと返辞につまッたまま、目のくらむような恥辱をおぼえました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)