切々きれぎれ)” の例文
それと同時にここに日の光をさえぎって昼もなお暗い大木が切々きれぎれに一ツ一ツ蛭になってしまうのに相違そういないと、いや、全くの事で。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二昔も程遠き今日からふりかえって考えてみると夢のような取り止めも付かぬ切々きれぎれが、かすかな記憶の糸につながれて、廻り燈籠のように出て来るばかりで。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「彼女」の台辞せりふだって、切々きれぎれに覚えている。そんなことを考えていると、新子は姉に対する、肉親らしい感激で、さっきとは別人のように、興奮してしまった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
(いいえ、先生、貴下あなたが、寐かして、)と切々きれぎれにいったが、いつになく酔っちゃいるし、ついぞないことをいうんだから、婆さん、はッと気がついて大喜び。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何でも水の夢ばかり切々きれぎれに見ましてね、繋ぎに目が覚める、と丁ど天龍川の上だったり、何処かの野原で、水が流れるように虫の鳴いてた事もありましたがね。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家々の根太ねだよりも高いのであるから、破風はふの上で、切々きれぎれに、かわずが鳴くのも、欄干らんかんくずれた、板のはなればなれな、くいの抜けた三角形の橋の上にあしが茂って、虫がすだくのも
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四方へ引張つたつなが揺れて、鐘と太鼓がしだらでんで一斉いちどきにぐわんぐわらん、どんどと鳴つて、其でいちが栄えた、店なのであるが、一ツ目小僧のつたひ歩行ある波張なみばり切々きれぎれに、藪畳やぶだたみ打倒ぶったお
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鐘と太鼓がしだらでんで一斉いちどきにがんがらん、どんどと鳴って、それでいちが栄えた、店なのであるが、一ツ目小僧のつたい歩行ある波張なみばり切々きれぎれに、藪畳やぶだたみ打倒ぶったおれ、かざりの石地蔵は仰向けに反って、視た処
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)