兵古帯へこおび)” の例文
それを学生は外使そとづかいに使うことが出来た。白木綿の兵古帯へこおびに、小倉袴こくらばかま穿いた学生の買物は、大抵極まっている。所謂「羊羹ようかん」と「金米糖こんぺいとう」とである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
ちょっと思案してから兵古帯へこおびをぐるぐるほどき、着物まですっぽり脱いで、シャツと猿又さるまただけの姿になり
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
やがて陰士は山の芋の箱をうやうやしく古毛布ふるげっとにくるみ初めた。なにかからげるものはないかとあたりを見廻す。と、幸い主人が寝る時にきすてた縮緬ちりめん兵古帯へこおびがある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真蔵は銘仙の褞袍どてらの上へ兵古帯へこおびを巻きつけたまま日射ひあたりの可い自分の書斎に寝転ねころんで新聞を読んでいたがお午時ひる前になると退屈になり、書斎を出て縁辺えんがわをぶらぶら歩いていると
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
鶴は洗面所でうがいして、顔も洗わず部屋へ帰って押入れをあけ、自分の行李こうりの中から、夏服、シャツ、銘仙めいせんあわせ兵古帯へこおび、毛布、運動靴、スルメ三、銀笛、アルバム
犯人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そっと自分のからだをがけのふちまで移動させて、兵古帯へこおびをほどき、首に巻きつけ、その端をくわに似た幹にしばり、眠ると同時に崖から滑り落ちて、そうしてくびれて死ぬる
姥捨 (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕はベッドから降りて兵古帯へこおびをほどいた。いつものとおりの竹さんだ。場長と結婚するなんて、うそみたいに思われて来た。なあんだ、僕はいまうとうと眠って夢を見たのだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
カメラ納めた黒鞁くろかわ胴乱どうらん、もじもじ恥じらいつつも、ぼくに持たせて、とたのんで肩にかつがせてもらって、青い浴衣に赤い絞り染めの兵古帯へこおびすがたのあなたのお供、その日
二十世紀旗手 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「書いていますよ。」青扇は兵古帯へこおびをむすびながら床の間のほうへいざり寄った。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
かぼちゃのつるのうねりくねってからみついている生垣いけがきに沿った小路を夫が、洗いざらしの白浴衣しろゆかたに細い兵古帯へこおびをぐるぐる巻きにして、夏の夕闇に浮いてふわふわ、ほとんど幽霊のような
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
ちょうど古着屋のまえでしたので、その店の古着を早速着せられました。女の子の浴衣ゆかたでした。帯も、緑色の兵古帯へこおびでした。ひどく恥かしく思いました。叔母が顔色を変えて走って来ました。
五所川原 (新字新仮名) / 太宰治(著)
派手な大島がすりあわせに総絞りの兵古帯へこおび、荒い格子縞のハンチング、浅黄の羽二重の長襦袢ながじゅばんの裾がちらちらこぼれて見えて、その裾をちょっとつまみあげて坐ったものであるが、窓のそとの景色を
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
もともと、お洒落な子だったのですし、洗いざらしの浴衣ゆかたに、千切れた兵古帯へこおびぐるぐる巻きにして恋人に逢うくらいだったら、死んだほうがいいと思いました。さんざ思い迷って、決意しました。
おしゃれ童子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ものも言わず蚊帳かやを脱けだし、兵古帯へこおびひきずり、一路、お医者へ。
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)