八衢やちまた)” の例文
ここに日子番の邇邇藝の命、天降あもりまさむとする時に、天の八衢やちまたに居て、上は高天の原をらし下は葦原の中つ國を光らす神ここにあり。
この俄崖とすれ/\に剥げた黒塀が構えられていて、その塀を越せばもう出前持が自転車で岡持を持ち運ぶ都大路の八衢やちまたの一つになっております。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
実際この寂しい川筋の景色も、幾多の冒険にれた素戔嗚には、まるで高天原たかまがはら八衢やちまたのように、今では寸分すんぶん刺戟しげきさえない、平凡な往来に過ぎないのであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
辻占の古い形に「言霊のさきはふ道の八衢やちまた」などゝ言うて居るのは、道行く人の無意識に言ひ捨てる語に神慮を感じ、其暗示を以て神文の精霊の力とするのである。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
実地に当ると、八衢やちまた前途ゆくてわかれて、道しるべをする事はむずかしい……世の中になったんですね。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天孫降下の間先駆者還ってもうさく、一神あり天の八衢やちまたにおり、その鼻長さ七せき、背長さ七尺余(まさに七ひろと言うべし)、かつ口尻明耀めいよう、眼八咫やたの鏡のごとくにして赩然、赤酸醤に似たりとありて
王も きさきも 群衆ぐんじゆうも はた八衢やちまたも 高殿も
一点鐘 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)