入鹿いるか)” の例文
蘇我氏は、稲目いなめ馬子うまこ蝦夷えみし入鹿いるかの四代を通じ、いずれも、優れた統治者であったものと判断するのが合理的である、と私は考える。
馬子、蝦夷えみし入鹿いるか等の兇暴を国家のために黙視されなかったとはいえ、彼らの内奥ないおうよりの「和」をまず祈念されたのは当然でなかろうか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
欽明天皇の御代みよでも差支ない気がする。応神天皇や称武天皇では決してないと思ふ。三四郎はたゞ入鹿いるかじみた心持こゝろもちを持つてゐる丈である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
尾張小富士という山は、尾張国の北の境、入鹿いるかの池の近くにある小山ですが、山の姿が富士山とよく似ているので、土地の人たちに尊敬せられています。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
馬子うまこは、太子の御英明の前に、雌伏してゐる外なかつたが、太子薨去後、その野心を現はし、不臣の振舞多く、その子蝦夷えみし、孫入鹿いるかに至つては、馬子以上に専横を極め
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
大極殿で入鹿いるかが殺され、蝦夷えみしがわが家に殺されたとき、死に先立って、天皇記と国記を焼いたそうだ。もっとも恵尺という男が焼ける国記をとりだして中大兄なかのおおえに奉ったという。
不正直者、謀反人、忠義の心忘れた奴! ……北条高時、弓削ゆげノ道鏡、蘇我の入鹿いるか川上梟帥かわかみたける、こういう奴ならいつでも斬る! ……われらがご主人桂子様ご姉妹、ご姉妹に、たてつく人間あらば
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此ハムレツトは動作が全く軽快で、心持がい。舞台のうへを大いに動いて、又大いにうごかせる。能掛りの入鹿いるかとは大変趣を異にしてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さて、蘇我氏の権力は、馬子うまこ蝦夷えみし入鹿いるかと、三代にわたって続いたが、とくに馬子は、ひじょうに人望のあった人である。
その子孫のエミシも入鹿いるかもそうですが、ことに入鹿は聖徳天皇の皇子、つまりヒダ王家の本当の嫡流たる山代大兄やましろおおえ王を殺して自分が皇位に即いていますが、実際は架空の人物で
飛騨の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
爪黒つまぐろの鹿の血と、疑着の相ある女の生血とを塗つた横笛が、入鹿いるかを亡ぼす手段の一つであるやうに、瑠璃子夫人の急所を突くものは、青木淳の残した此のノートの外にはないと、信一郎は思つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
備中上房じょうぼう上有漢かみうかん村字入鹿いるか高下
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それは到底見込みこみかない。そこで舞台全体を入鹿いるかつもりで眺めてゐた。すると冠でも、沓でも、筒袖の衣服きものでも、使ふ言葉でも、何となく入鹿いるかくさくなつてた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
中大兄の同志はわずかに五人であったが、大胆にも、宮中で入鹿いるかを刺し殺した。ついで蝦夷えみしを殺害した。そうして完全に、権力を、その一派の手に握ったのである。
爪黒つまぐろ鹿しかの血と、疑着ぎちゃくの相ある女の生血とを塗った横笛が、入鹿いるかほろぼす手段の一つであるように、瑠璃子夫人の急所を突くものは、青木淳の残した此のノートの外にはないと、信一郎は思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
見ればわかるだろうと考えて、うんなるほどと言っていた。ところが見ればごうもその意を得ない。三四郎の記憶にはただ入鹿いるか大臣おとどという名前が残っている。三四郎はどれが入鹿だろうかと考えた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)