傷負てお)” の例文
そこここには、明智衆の傷負ておいと、織田衆の傷負いと、枕をならべておるが、もうこの垣の内では、互いに、斬り結ぼうともしておらん。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かぶさってくるその傷負ておいを蹴ほどいて、一歩敷居に足をかけ、栄三郎、血のしたたる剛刀をやみに青眼……無言の気合いを腹底からふるいおこして。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
傷負ておいは数知れず、しかも重将ことごとく討たれ、新附しんぷの兵はみな離散し、この御本陣においてすら、今は幾何いくばくの兵が残っていると思し召すか
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わしが手をかけた怪我人けがにんには指もささせはせぬ。よもまた、それらの傷負ておいをらっして行こうとは検察の明智衆もいうまい」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やむなく、彼には一室を宛てがって待たせておき、清十郎の行く先へは使いを走らせ、一方では医者を迎えて、重体の傷負ておい数名を、奥で手当てしていた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実をいえば、その附近へ逃げこんだに違いないその傷負ておいというのは、裏方とはご縁の浅くない吉水禅房の末輩で、法然房が叡山へ諜者ちょうじゃに放った人間なのじゃ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夢中の市十郎は、傷負ておいの手をもぎ放した。ウームといううめきが足もとでもれた。彼には何の識別もない。泳ぐように部屋へ入り、また次の間へ伝って行った。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それがしは、並河掃部なみかわかもんの手についておる山部主税やまのべちからであるが、今暁来の合戦に、味方の傷負ておいをおいたわり下されたこと、明智の殿の御名をもってお礼をいう」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし事実は、死骸と思った瀕死の傷負ておいが、苦しまぎれに、市十郎の裾をつかんでいたのであった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その医者が帰ると間もなく、燈火あかりのついた奥の部屋で傷負ておいの名をよぶ声が二、三度聞えた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その傷負ておいをひとりひとり抱き起して、傷口を洗ってやったり、ぼろきれで仮の繃帯をほどこしてやっても、かれらはまだ狼のように、ともすれば噛みつきそうな顔をしていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また傷負ておいをたすけたり、兵糧ひょうろうかしぎに働いたり、どこもかしこも混乱沸くが如き騒ぎを呈しておりながら、しかも誰が命じるでもなく、ひとすじの秩序はその中にきちんと立っていて
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとに、累々るいるいとしてなお残されていたのは、その日の傷負ておいと戦死者だった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、馬も疲れきッて、ここでは傷負ておい馬などもう一歩も前へ出ない。正成はくらを下りた。ほかの将も騎の者はそれにならって馬を捨てた。そして追いやるにみな鼻ヅラを撫でていたわり放つふうだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その傷負ておいの男、名は実性じっしょうというのじゃ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)