俘虜とりこ)” の例文
「縄抜けの法は泥棒ばかりでは有りません。御武家でも覚えて置いて好いと思います。敵に俘虜とりこに成った時に、役に立ちますからね」
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
うすると、こゝろきざんで、想像さうざうつくげた……しろ俘虜とりこ模型もけい彫像てうざうが、一団いちだんゆきごとく、沼縁ぬまべりにすらりとつ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
虚しく手をつかねて彼の饒舌の俘虜とりことなり、このドシャ降りの雨の日に更に憂鬱このうへもない数十分をもつことは、どうにも我慢がならなかつた。
お喋り競争 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
そう思いながら歩いていると、身体がふらりふらりと宙に浮いて来た。どうしたはずみか、ふと革命党が自分であるように思われた。未荘の人は皆彼の俘虜とりことなった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
燃えるような冒険心をいだいて江戸の征服を夢み、遠く西海の果てから進出して来た一騎当千の豪傑連ですら、追い追いのいきな風に吹かれては、都の女の俘虜とりことなるものも多かった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
チチコフと一緒に立派な箱馬車に乗って何かの会合へ出かけてゆき、気持の好い応対ぶりで一同をすっかり俘虜とりこにしてしまう、やがて、彼等のそうした細やかな友情が叡聞えいぶんに達して
じたばたすると片端かたッぱしから踏殺すから左様心得ろ、手前らは己を此処へおびいて、俘虜とりこにして命を取ろうとしたたくみわなへ、故意わざと知って来たを気が附かんか、大篦棒おおべらぼうめ、ぐず/\すれば素首そっくびを打落すぞ
私は、暫く、星の世界の俘虜とりことなっていた。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼はたちまちのうちにこの二人をすっかり俘虜とりこにしてしまった。
「あははは。とうとう僕も火星の俘虜とりこになってしまったようですね。しかしこのような絶海の孤島で、あなたがたのような火星の親類がたと暮していると、どうしてもそうなりますね。いや、火星の生物にまだ取って喰われないだけが見つけ物かもしれない」
地球を狙う者 (新字新仮名) / 海野十三(著)